随想

いのち短し恋せよ乙女(平成22年度 『大学だより』より)

学長 小林 素文

 入学式で、シラーの詩「未来はためらいつつ近づき、現在は矢のように速く遠く飛び去り、過去は永久に静かにたっている」を紹介し、貴重な限られた大学時代を実り多いものとしていただきたいとエールをおくりました。
 「光陰矢のごとし」、時はまたたく間に過ぎ去っていきますが、こと青春時代となると甘美な響きをもってきます。
 イタリアルネッサンスの代表的詩人ロレンツォの「バッカスの歌」はイタリア人なら誰でも知っているうたです。

「青春とは なんと美しいものか
 とはいえ、見る間に過ぎ去ってしまう
 愉しみたい者は、さあ、すぐに
 たしかな明日は、ないのだから」(塩野七生訳)

 こうした思いは万国共通です。童話作家デンマークのアンデルセンは『即興詩人』で、次のようにうたっています。

「朱の脣に触れよ
 誰が汝の明日猶在るを知らん
 恋せよ 汝の心の猶少く
 汝の血の猶熱き間に」(森鴎外訳)

 日本では、歌人 吉井勇が「ゴンドラの唄」で、甘くせつなく青春を歌っています。

「命短かし恋せよ乙女
 黒髪の色あせぬまに
 心のほのお消えぬ間に
 今日は再び来ぬものを」

 誰にも青春時代があります。その真っ只中に在るときは、つらく苦しい日々があったにしても、過ぎ去り、その景色が遠ざかるほどに、なつかしさがつのってくるものなのです。
 どうぞ貴重な青春の日々、若者らしく悔いのない日々を過ごしてください。