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2014年10月02日

高校生のための心理学講座シリーズ 心理学と社会―こころの不思議を解き明かす―

高校生のための心理学講座シリーズ 心理学と社会―こころの不思議を解き明かす―

平成26年8月9日(土) 星が丘キャンパス

心理学の奥深さ、おもしろさにふれる特別講座。
多くの高校生が学びへの意欲を高めました。

 目には見えない"こころ"を追究する、心理学。科学的根拠に基づいて調査や実験などをおこない、"科学的思考"を養います。この学問への理解を広げるために、毎年、日本心理学会が「高校生のための心理学講座」を開催しています。今年は全国14大学で実施。本学も中部Ⅰ地区会場校として参加し、8月9日(土)、心理学部の教員5人が特別講座をおこないました。高校生や保護者の方など約140人が受講し、大教室はほぼ満席状態。皆さん、簡単なワークなどを交えて体験的に学び、心理学の多様な領域について興味・関心をいっそう深めました。ここでは、各講座の内容をダイジェストで紹介します。

1時限目「心理学とは」
担当講師:斎藤 和志 教授

 「心理学とは"人の心の働き"や"人の行動"を研究する学問です。主に、実験によって人の行動の法則性を科学的に探っていきます。心理学部は文系の学部ですが、学ぶ領域は人文・社会科学から自然科学まで多岐にわたります」と心理学の概要から話し始めた斎藤先生。研究の対象が"人間"であるからこそ、さまざまな視点からのアプローチが必要になることを解説しました。心理学研究の進め方の一例として、錯視(目の錯覚)を体感する不思議な絵を紹介。同じ絵でも多様な要因によって見え方が変化すると、高校生は「なぜ?」と興味津々。こうした疑問を感じ、答えを自ら探ることが、心理学において重要になると斎藤先生は語りかけました。「自問自答を繰り返してたどりついた答が正しいのか、実験や調査をおこない客観的に検証していく。その過程で培われる"論理的に考える力"が社会でも大いに役立ちます」。高校生たちは、想像以上に幅広く、奥深い心理学にふれ、学ぶ意欲をより高めました。

2時限目「認知心理学」
担当講師:吉崎 一人 教授

 心理学の中でも比較的新しい「認知心理学」は、ヒトの知(みる、わかる、覚える、など)、情(悲しい、楽しい、腹立たしい、など)、意(欲しい、あきらめる、やる気がでる、など)の仕組みを探る分野です。脳科学とも関わりが深い認知心理学について高校生が理解できるよう、吉崎先生は心理学部の授業でもおこなう実験を実施しました。その内容は、スクリーン上に次々と映し出される人物の顔、名前、職業を覚え、後で思い出せるかをテストするという記憶実験。高校生たちも積極的に参加し、ヒトの名前は職業よりも思い出しにくいことを、実験結果を通して学びました。「相手の顔を認識してから名前を思い出すまでに、ヒトの脳は"知っている人か?"→"何者か?"→"名前は?"という順番で情報を呼び出していきます。こうした"こころ・行動のルール"を科学的に探るには、今日、皆さんがおこなったように、実験をして記憶成績を「数」に置き換え、客観的に検証することが第一歩になります」と吉崎先生は実験の意義をわかりやすく解説。高校生たちは、目には見えない心の法則性を探ることのおもしろさを体感しました。

3時限目「発達心理学」
担当講師:坂田 陽子 教授

 「生まれてすぐに言葉を話せた人、計算できた人はいますか? 中学生を見て、若いなあと思うことはありませんか? 普段はあまり意識しませんが、人は生涯、常に変化していきます。その変化を研究するのが発達心理学です」と高校生たちに語りかけた坂田先生。数や量を認識する能力を幼児がどう獲得していくのか、検証した実験の映像などを交えながら解説しました。「7、8歳ごろから、自分が見ているものと他人が見ているものが、必ずしも同じではないことを理解します。そのチカラは、とても大切。見え方や考え方の違い、多様性を知ることは、思いやりの心を養うことにもつながります」という坂田先生の話を聞き、高校生たちは発達心理学が子育てや教育にも大きく関わることを感じ取りました。また、空間認知の発達については"方向音痴"を題材に講義し、方向感覚のいい人と悪い人の歩行時の視線の動きを記録した映像を紹介。身近な事象が研究テーマになる、"心理学を学ぶ楽しさ"が伝えられました。

4時限目「臨床心理学」
担当講師:清瀧 裕子 准教授

 心理学と聞いて高校生の多くがイメージするカウンセリングは、臨床心理学で扱うことのほんの一例です。心理的な苦しみや悩み、不安を感じている人をどう理解し、援助すればいいのか。こうしたテーマのもと、心理検査、カウンセリング心理療法、コミュニティへの心理的支援など、さまざまな分野にアプローチするのが、臨床心理学です。「心に悩みを持った人が自分と向き合い、自分から変わろうと一歩を踏み出すことを支援する。それが臨床心理学の目標です。雑誌やサイトなどで手軽にできる心理テストは、臨床心理学でおこなわれるものではありません。実際に使われるものは、正確に心を測ることができるように科学的に作成されています」と清瀧先生。心理検査も心理療法も多種多様であり、すべての基本は、相手の思いを引き出す"傾聴"だと説明しました。高校生たちは臨床心理学への理解を新たにしながら、社会のあらゆる場所で求められる心理学の重要性をあらためて感じました。

5時限目「社会心理学」
担当講師:小川 一美 准教授

 人と人の関わりが生じている場が"社会"であり、1対1の関係も"社会"にあたります。社会心理学は、自分と他者とのかかわりを対象とする心理学。自己、対人コミュニケーション、集団意思決定、社会的迷惑行為など、さまざまなものが研究テーマとなります。その導入として、小川先生は同調行動に関する有名な研究などを紹介し、さらに、対人認知の実験を実施。I君という男の子はどんな人なのか、印象を評定する実験でした。「どれもI君に関する情報なのに、"妹にやさしい""友達が多い""お年寄りにやさしい"という情報と、"噂話が好き""よく先生に叱られる""宿題をさぼってばかりいる"という情報の、どちらか片方だけを聞いた状態ではI君に対して偏った印象を持ってしまいます。こうした日常生活のなかに潜む多様な出来事の理由を解明したり、研究結果をもとに対策を考えたりするのが、社会心理学です。学ぶ人自身も、人とよりよい関係を築いていく際に役立つでしょう」と、小川先生は社会心理学を学ぶ意義をわかりやすく語りました。

高校生のための進路相談会を同時開催!

 昼休みを利用し、進路に関する相談に入試アドバイザーがマンツーマンで対応しました。心理学部にはどんな授業があるのか、卒業後はどんな道に進めるのか、気になる大学情報を聞くことができて、高校生たちは笑顔を輝かせました。