追究

2018年12月28日

第5回 文学部 講演会 膝枕と釣針―『古事記』の典拠を探る―

第5回 文学部 講演会 膝枕と釣針―『古事記』の典拠を探る―

2018年11月16日(金) 長久手キャンパス 511教室

「古事記と仏典の間には関係があるのだろうか」
その謎に迫る研究を紐解くことで、
文学研究の魅力を体感しました。

 本学の文学部では、国文学科・総合英語学科・教育学科の各学科それぞれが年に2回、外部講師をお招きし、学生たちの学術的視野を広げるための講演会を実施しています。11月16日(金)には、国文学科が主催する今年度5回目の「文学部 講演会」を実施しました。講師としてお招きしたのは、上智大学 国文学科の瀬間 正之教授。専門分野は古事記や日本書紀などの上代文学で、文字表現から上代文学の魅力や謎に迫る学際的・国際的な研究者です。今回の講演会は「膝枕と釣り糸―『古事記』の典拠を探る―」と題し、瀬間教授の研究をひもときながら、『古事記』と『仏典』の関係について迫りました。

第5回 文学部 講演会 膝枕と釣針―『古事記』の典拠を探る―

第5回 文学部 講演会 膝枕と釣針―『古事記』の典拠を探る―

 まず、瀬間教授は、「戦前は『古事記』と仏典の間には関係がないとされていた」、「一方『日本書紀』の文章は『藝文類聚』のような類書によって潤色された」と解説した上で、「『古事記』もまた、『日本書紀』と同様、漢訳仏典の書物から孫引きして書かれたのではないか」という仮説のもと、日本における『古事記』の典拠研究が進められてきたことを紹介。瀬間教授自身も、『古事記』と漢訳仏典の類書である『経律異相』の中に、共に「膝枕」という単語が使われていることを発見し、さらにストーリーも類似していることを発見したと説明しました。さらに、『古事記』と『経律異相』の間にだけ見られる多くの類似点を示すことで、「他の類書ではなく『経律異相』を座右に置いて『古事記』が書かれた」というひとつの見解を示しました。

第5回 文学部 講演会 膝枕と釣針―『古事記』の典拠を探る―

第5回 文学部 講演会 膝枕と釣針―『古事記』の典拠を探る―

 瀬間教授は、講演の中で「古事記と仏典の関係における研究がなかなか進まなかった理由の一つとして仏典の膨大な量にありました。仏典を題材に研究することは、まさに大海原に釣針を垂らすようなもの。それでも私がたまたま膝枕という言葉を『古事記』にも『経律異相』にも見つけることができたのは、常に“膝枕という言葉がどこかにないか”と気にしていたからです。研究において大切なのは、“どれだけ気にすることができるかどうか”であることを知ってほしいと思います」とメッセージ。文学に対峙し、自らの価値観を深めていく学生にとって欠かせない視座を提示しました。
 上代文学の奥深さに触れるだけでなく、研究者として必要な心得も知ることとなった今回の講演会。学生たちにとって大いなる刺激となり、今後の研究への原動力にもなったことでしょう。本学では学生たちの知的好奇心を刺激する多くの講演会を用意することで、これからも一人ひとりの成長を支えていきます。