追究

2019年05月24日

創造表現学会主催 講演会 「子どもの本づくりのおもしろさ その重層性」

創造表現学会主催 講演会 「子どもの本づくりのおもしろさ その重層性」

2019年3月26日(火) 長久手キャンパス 512教室、433教室

児童書の編集者の仕事や使命を学ぶ講演会を実施。
第一線で活躍する編集者から子どもの本と本づくりの魅力を学びました。

 本学の創造表現学部は、「言語」「メディア」「建築・インテリア」といった多様な表現領域についての知識や表現方法を学ぶことで、豊かな自己表現と情報発信のスキルを身につけ、実社会の諸問題にも適切に対処できる人材育成を目標としている学部です。学内外において体験的な学びの場を提供し、学生たちの向学心を刺激しています。そのひとつとして、創造表現学会が年に数回にわたって実施しているのが、各分野の第一線で活躍する外部講師をお招きしておこなう講演会です。2019年3月26日(火)には子どもの本の編集者であり、書評家としても活躍するほそえさちよさんにご登壇いただき、子どもの本づくりの魅力について教えていただきました。
 会の前半は、ほそえさんによる講演会。「子どもの本づくりのおもしろさ その重層性」と題し、ほそえさんは、自らの経験とともに子どもの本の奥深い世界について解説されました。まずは、子どもの本の編集のあれこれから。ほそえさんは、出版社勤務時代に自らが初めて編集を担当した絵本や、本が生まれるまでの過程をテーマにした絵本などをスクリーンに映し出しながら、本ができあがるまでには作家や画家だけではなく、様々な分野のプロフェッショナルが関わっていることを紹介。さらに「編集者は本をつくっているだけではありません」と語り、作家とコミュニケーションをとって作品の表現をクリアにしたり、手にとってもらいたい読者の姿を想像しながら本のかたちを決めていくこと、読者とのやり取りを通じて本に込めた思いを正しく伝えていくこと、読者に本を届けるために司書や書店員との信頼関係を作っていくことなど、本を生み、育てていくための多くの使命があることを紹介されました。

創造表現学会主催 講演会 「子どもの本づくりのおもしろさ その重層性」

創造表現学会主催 講演会 「子どもの本づくりのおもしろさ その重層性」

 さらに話のテーマは「絵本の表現について」へと転じ、「社会や世界の状態がわかりにくい現代では、目に見えることを分類し、指し示すことを得意とする”デザインの力”を借りた絵本が、多くの人に受け入れられています。しかし、デザインは”ものごとを分けて指し示すこと”を、クリエイトは”ゼロから生み出すこと”を意味します。ゼロからかたちづくる”クリエイトの力”を発揮した作品づくりは本当に難しく、新しい表現や考えほど、現代では理解が得られにくい節があります。するとすぐに“つまらない”という評価を受けてしまい、クリエイティブな作品が生まれにくくなってしまいます。そうならないために読者の目を育てることも含め、編集者に課せられた使命は多様化しているように思います」と、時代の移り変わりとともに変化する編集者の存在意義についても語りました。その後この「クリエイト」をテーマに、複数の作品を見比べながら、子どもの心に響く本はどのようなものなのかをていねいに伝えられました。

創造表現学会主催 講演会 「子どもの本づくりのおもしろさ その重層性」

創造表現学会主催 講演会 「子どもの本づくりのおもしろさ その重層性」

 会の後半は場所を移し、軽食を取りながらの茶話会形式でトークイベントをおこないました。聴講者から寄せられた質問にほそえさんが回答する形で会は進み、編集者の仕事から本のつくり方まで、さまざまな質問が寄せられました。「大手出版社と中規模の出版社で、仕事の違いはありますか?」「おもしろい文を書く人の共通点はありますか?」「海外作品と日本の作品とで編集方法の違いはありますか?」。ほそえさんは、寄せられた一つひとつの質問に答えるだけでなく、質問にからめながら本づくりの魅力を発信しつつ、ものづくりに携わる者に必要な心構えも伝えてくださいました。たとえば「子どもの本をつくる時、伝えたいことがないといけないでしょうか?」という質問。「読み手も書き手も“伝えたいこと”を限定的に捉えがちだと思います。お題目的なメッセージでなくても、ゼロから何かを生み出そうとすると、伝えたいことは自然と形を帯びるものです。漫画の線一本取っても、そのスピード感で主人公の思いなどを表すでしょう。その線のタッチのスピード感や主人公の思いというのは、十分“伝えたいこと”になりえます。その作品を通じて作者が伝えたいことの本質をしっかりと掴んで、具体化させていくことが編集者の大切な役割です」。
 ほそえさんの実体験に基づく素敵な言葉を受け取ることができた今回の講演会。その一つひとつは、ものづくりをめざす学生にとって、創造の指針となったことでしょう。創造表現学部では、今後も学生と社会をつなぐさまざまな機会を提供し、一人ひとりの可能性を大きく広げていきます。