追究

2015年09月09日

高校生のための心理学講座

高校生のための心理学講座

平成27年8月8日(土) 星が丘キャンパス 12A教室

心理学はこころの科学である。特別講座を通して学びへの興味が深まりました。

 公益社団法人日本心理学会主催の「高校生のための心理学講座」も今年で4年目を迎えました。この講座は、心理学は実験から得たデータなどを分析し、科学的根拠に基づいた科学的思考を育てる学問ということを理解してもらうために開かれています。8月8日(土)、星が丘キャンパスの会場は心理学に興味を持つ高校生たちで満席。実際の研究や事例を交えた説明、受講者参加型のワークなど心理学を広く深く知るための内容に目を輝かせていました。ここでは、各講座の概要をお伝えします。

1時限目「心理学とは」
担当講師:斎藤 和志教授

 「心理学に対して、人の心を読んだり、夢を分析して人の本心を見抜いたりするものというイメージを持っている人もいるのではないでしょうか?」。講座の冒頭、斎藤先生は高校生たちにそのような質問を投げかけました。実は、心理学は人の心の動きや行動を『科学的』に研究する学問。主に、人が視覚情報などの刺激を処理・認識してから、表情や気持ちの変化といった反応を示すまでのプロセスを研究するものです。講座ではそのような心理学の概論の説明の後、研究の進め方が紹介されました。まず、「なぜ?」という疑問を抱くことが研究のスタート。その後、「○○だから」という仮定を立て、データ収集や分析により仮定を確かめていきます。世界でおこなわれた心理学研究の紹介も含んだ分かりやすい講座に、高校生たちはノートを取るなどしながら真剣に耳を傾けていました。実際の学問の内容や好奇心をくすぐるような研究事例を知り、心理学への憧れはますます膨らんだようでした。

2時限目「認知心理学」
担当講師:吉崎 一人教授

 認知心理学とは、記憶や学習、理解などを研究対象とするもので、心理学の一分野です。講座では、記憶を測定する実験を通して認知心理学への理解を深めていきました。実験は、まず「図書館」「冷たい」など100個の単語を覚え、その後配布された解答用紙に記載されたさまざまな単語が先ほど覚えたなかに「あった」か「なかった」かを答えるもの。高校生たちは興味津々といった面持ちで実験に参加していました。そして答え合わせの段階、会場はにわかに騒然としました。「なかった」のに「あった」と答えてしまう誘導問題が含まれ、そこに多くの人がひっかかったのです。この原因を、吉崎先生は「既存の知識との関連で私たちは情報を覚えています。しかし、それは時に知識があるが故の勘違いをもたらすこともあるのです」と説明。たとえば、「赤い」「果物」と聞いただけで、「りんご」を勝手に連想してしまうということです。記憶の不思議に触れ、認知心理学の面白みを知る講座となりました。

3時限目「発達心理学」
担当講師:坂田 陽子教授

 人間の生涯を通した変化を研究する発達心理学。発達というと、赤ちゃんが喋れるようになったり、歩けるようになったりと"成長"のイメージが強いかもしれません。しかし、坂田先生は言います。「発達とは成長ばかりではありません」。たとえば、人間は生後半年までは世界中で使用されているすべての言語音を聞き取ることができます。しかし、生後半年を過ぎる頃から、日本で言えば英語のLとRの聞き分けなど、母国語にない音の聞き取りが難しくなります。「これは、限りある脳の記憶量を有効活用するための発達です。それぞれの環境で生き伸びるための機能を優先して残していくのです」という坂田先生の説明に高校生たちは興味深そうに頷いていました。講義の終盤では、方向感覚の良い人と悪い人の視線の比較を紹介。方向感覚の悪い人も視線を上にあげることで方向感覚はすぐに良くなるという説明から、人は常に変化することができることを高校生たちは学び取りました。

4時限目「臨床心理学」
担当講師:清瀧 裕子准教授

 カウンセラーになるには必修の分野である臨床心理学。講座では、心理的な苦しみや悩みなどを抱えた人々を理解し、援助するカウンセリング方法についての説明がなされました。カウンセリングの基本的な流れは、相談者の話をじっくりと聞いて何が問題なのかを探り、相談者が自分と向き合い、自分の問題に気づいていくのを専門的な手法を通して支援することです。ここで清瀧先生が強調したのは、「あくまで悩みを持った人が自ら気づき、自ら変わるのを支援することがカウンセリングのポイント」ということ。しかし、無意識な心の動きは本人も周囲も気づきにくく、これを明らかにするために心理検査などをおこないます。それによって危機(crisis)を引き起こしている心のなかの問題を見つけるのです。「crisisに向き合うことは辛いことかもしれません。しかし、それを乗り越えたことで人生がより良い方向に向かった相談者も見てきました」。清瀧先生のその言葉は、カウンセラーをめざす高校生の心にも強く響いたようです。

5時限目「社会心理学」
担当講師:小川 一美教授

 人と人とのかかわりに着目する社会心理学。この講座では、1964年にニューヨークで起きた「キティ・ジェノヴィーズ事件」の説明から集団心理を学ぶものになりました。これはキティ・ジェノヴィーズという女性が夜中にアパート近くで暴漢に襲われ、彼女の叫び声に近隣住民38人が気づきながらも誰も助けに行かなかった結果、彼女が独り亡くなってしまったという事件です。当時、「都会の冷たさ」や「近隣住民の人間性の問題」を表す事件としてマスコミに盛んに取り上げられました。しかし、このマスコミの主張にある社会心理学者たちが反論。彼らがおこなった実験の結果、「人は集団のなかにいると責任の分散が生じ、援助行動が抑止される」ことが証明されました。キティの事件の場合も、「誰かが助けるだろう」という心理(責任の分散)が38人に働いたことが悲惨な結果につながったのです。高校生たちは実例を通し、小川先生の「人は他者から影響を受け、他者に影響を与え、生きている」という言葉をより深く理解しました。