松本壮史監督トークショー「『サマーフィルムにのって』ができるまで~松本壮史監督の魅力を解剖する~」イベントレポート

 10月25日、映画やドラマ、ミュージックビデオなど映像の分野で幅広く活躍する松本壮史監督をお招きし、「『サマーフィルムにのって』ができるまで~松本壮史監督の魅力を解剖する~」と題してトークショーが開催されました。プロモーションビデオやCMの制作をきっかけに2021年公開『サマーフィルムにのって』で映画監督デビューを果たした松本監督。映画監督になるまでの経緯や『サマーフィルムにのって』の制作についてなど、学生に向けて様々なことを語っていただきました。聞き手として、本学非常勤講師で、名古屋のミニシアター・シネマスコーレの副支配人でもある坪井篤史先生もご登壇くださり、松本監督から面白いお話を引き出してくださいました。

 松本監督は大学卒業後、映像制作会社に入社。そこで医療関係者に向けた製薬会社のPR動画などの制作をされていたそうです。「一般に公開されず、対象である医療関係者も実際に見ているか分からない。誰も見ないかもしれない映像を作っていた」と語る松本監督。その後、自らの挫折と向き合い、CMディレクターの事務所に採用されます。そこで江本祐介さんの『ライトブルー』という楽曲のMV監督したことが『サマーフィルムにのって』を制作するきっかけになったといいます。当時福島県立いわき総合高等学校に通われ、出演する生徒たちと親睦を深めて行われたMV制作は「楽しい経験だった」と語られました。この作品をきっかけに映画の企画が持ち上がり、初監督作品である『サマーフィルムにのって』が制作されることになります。

 続いて、今回のトークショーの題名にも掲げた松本監督の初映画作品『サマーフィルムにのって』についてお話を伺いました。この作品は、映画部に所属する主人公「ハダシ」が個性的なメンバーと共に映画製作に挑む部活映画でありながらも、主人公が、時代劇が大好きな女子高生であることや、映画の主役を演じることとなる凛太郎が未来からタイムスリップしてきた人物であることなど、青春映画×SF、女子高生×時代劇というように異色のジャンルが掛け合わさっている点が魅力です。この点について松本監督は「見返り無くやりたいことができるという体験は高校生までにしかできない。そういう点で部活映画を撮ってみたいと思いました。その中で女子高生と時代劇のように矢印の交わらないものが交わると面白いものが生まれると思います」と語ります。さらに映画ラストシーンの長回し演出については、“最高潮で終わる映画にしたい”という想いから『ライトブルー』での一発撮りの経験を活かして撮影に臨んだというお話をしてくださいました。その他にも映画未登場のキャラクターのお話や出演した俳優さんのエピソードなど『サマーフィルムにのって』の裏話もたくさん語っていただきました。

 その後、松本監督からトークショーに参加した学生へ「普段どんな映像作品を見るか」「日頃どんなことにお金を使っているか」など、質問を投げかける場面もありました。学生からは様々な意見が寄せられ、個性的な回答の数々に会場は大きな盛り上がりをみせました。

 最後に生徒から松本監督への質問コーナーが設けられました。学生からは「アイデア出しで行き詰った時の対処法」「作品への肯定的、否定的な意見との向き合い方」など今後の創作の参考にしたいと次々と質問が寄せられました。それに対して松本監督はご自身の経験も踏まえ、誠実に答えてくださいました。トークショー終了後も、監督と話したい学生の行列はしばらく続き、監督は一人ひとりに丁寧に応えてくださっていました。自身の作品との向き合い方、好きなことと働くことについての考え方など、等身大の目線でお話をしていただき、創作に取り組む学生には大変貴重な経験となりました。

 参加した学生からも「プロの目線から創作についての話を聞けてとても参考になった。」「映画業界への想いを聞き、とても感銘を受けました」と、有意義な時間を共有できたことへの喜びの声が上がりました。

参加者の感想

お話の中で「高校生が見返りを求めず何かに熱中できる最後の年代」とおっしゃっていたのが記憶に残っていて、私自身一年前から演劇活動を始めて、始めたての頃は見返りも何も求めていなかったのに、次第に周囲の反応や見返りを求めるようになってしまったなと感じました。初心を忘れずに活動し続けることは難しいですが、今一度定期的に自分の原点をふりかえり続けることの大切さを思い出しました。

(創作表現専攻2年 出口さん)

『サマーフィルムにのって』を観たとき、とても心が浄化されるような、癒されるような感覚がありました。今回の講演会を聞き、キャラクター像の影響だとわかりました。私もオタクなのいで、何かに熱狂する人の気持ちが理解できます。そういった人々を青春映画で肯定的に描いてくださったのが本当に嬉しく面白かったです。

(創作表現専攻2年 児玉さん)

『サマーフィルムにのって』という1本の映画を通して、映画、そして創作にまつわる熱い思いが会場を満たす、素晴らしい90分間でした。

(文責・創作表現専攻3年 小原千裕)