式辞

令和2年度 新入生の皆さんへ 学長

 新入生の皆さん、入学おめでとう。教職員一同、皆さんを心から歓迎いたします。


 本来ならば、国際会議場ですべての新入生の皆さんとともに晴れの式典に臨み、皆さんの入学をともに歓び合えるはずでした。しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大が日本国内にとどまらず世界的な規模に及んでおり、こうした状況下において、2000人余りの集団が一同に会するという事態はどうしても避けなければなりませんでした。閉ざされた会場において大きな集団が肩を並べ合うという状態により、皆さん自身が感染の危険にさらされるばかりでなく、そこからさらに感染を拡大させていく危険があります。まだ有効な特効薬もワクチンもない新型のウイルスの感染拡大に対し、私たちは冷静に忍耐強く、責任感をもって自他と社会を守って行かねばなりません。これから新学期が始まりますが、そこからさらに冷静さや忍耐力を必要とする日々が始まるでしょう。私たち教職員も出来るかぎりの努力を傾ける覚悟でおりますが、どうか皆さんも、新しい日々に社会的責任と緊張感をもって挑んでください。


 さて、本学を知る上で、もっとも大切なことをお話しします。それは大学の理念です。 大学の理念とは、愛知淑徳大学の教育を支える基本的な姿勢であり、考え方だと考えてください。それは「違いを共に生きる」という考え方です。男女の「違い」のみならず、年齢、民族、国籍、文化、言語、心身の障がいの有無といった人間相互のさまざまな「違い」を超えて、自分とは異なるものの存在、異なる考え方をお互いにフェアに認め合い、それぞれがこの世に存在する意味や価値を深く理解していくこと、この考え方こそが大学として、本学の高く掲げる「違いを共に生きる」という理念なのです。皆さんには4年間をかけて、この理念を身につけてもらいたいと願っております。


 皆さんが愛知淑徳大学のそれぞれの学部、学科、専攻を選び、入学試験の高い関門を越えて入学された目的は、まず学びたい学問領域、身につけたい専門技術、あるいは取得したい資格や免許があるからでしょう。皆さんが根気強く取り組めば、本学の教授陣やカリキュラムは皆さんの強い向学心や熱意に必ず応えうるものと私は確信しております。また、それこそが大学教育に携わる私どもの、皆さんに対する責任でもあり、義務でもあり、同時に歓びでもあるわけです。


 ただし、本学に学ぶ目的を専門知識や技術の習得だけにとどめるのではなく、それを生かし、いっそう豊かなものにするための基礎として、高いコミュニケ―ション能力を育ててもらいたいと思います。端的にいえば、コミュニケーション能力とは、まずは自分の考えや価値観を他者に正確に伝える能力であり、さらに学びで得た知識や技術によって、他者の持っている異なった考えや価値観を出来るかぎり正確に理解する能力です。


 これは口にすれば簡単なようですが、自分とは全く異なる他者との間で誤解や偏見のない正確な対話を交わし合うということになりますから、実は難しいことなのです。大きな問題でいえば、今なお戦争や内紛の続くイスラム諸国間の関係などを考えてみてください。その原因のひとつには、当事者たちに相互の意思や事情を許容し理解し合う努力、つまりコミュニケーションが欠けているのではないか、と思ったことがあるでしょう。SNS上に時おり飛び交う偏見と悪意に満ちた一方的なヘイト・スピーチなども事情は同じです。ごく身近な問題であれば、自分とは異なる価値観や趣味で生きる人のことを想ってみてください。自分とは違う、合わないという理由で背を向けたり、口をきこうともしなかった経験はありませんか? 国家や民族間でも、お互いが抱える「異なるもの」「違うもの」が大きな原因のひとつとなって根拠のない偏見や残酷な争いをひき起こすことが頻繫にあります。


 大学は、こうした自分とは「異なるもの」「違うもの」とのコミュニケーションへの糸口や、その技術や経験を育てるための示唆が豊富に用意された教育機関です。さきほども価値観の異なる人の例を挙げましたが、皆さんの身近な周囲にも「異なるもの」が満ちております。例えば、親しいと思っている友人も、厳密には、皆さん自身とはまったく異なる環境や生活習慣や人格や心をもって生きている他者です。こうした友人という身近な他者から始まって、巨視的には、人間そのもの、社会そのものを理解しようとすること、さらに外国や歴史という異なる文化や異なる時間を理解しようとすること、自分とは「異なるもの」として、多くの独自の存在や現象があることに気づくこと、これがコミュニケーションの糸口といえます。


 この気づきから理解や交流に向かう本格的なコミュニケーションが始まるはずです。その力を高めるために、人間の心の働きが客観的にはどんなものなのか学んだり、会話を楽しめる程度にまで外国語に力を注いだり、海外留学でさらに語学力を磨きあげたり、あるいは本学が力を入れているボランティア活動や海外インターンシップを通して生きた実社会に触れることなど、さまざまな契機や方法が大学には豊富に用意されています。それらこそ「違いを共に生きる」ための具体的な学びの機会だと考えてください。


 「異なるもの」「違うもの」を理解し交流しようとする努力の中で、皆さんには、人間の抱く喜びや苦しみや悩みや怒りといった様々な心の動きへの深い想像力や共感の力もおのずから備わってくるはずです。大学の4年間は、そういう気づきや学びに専念できる特権的な人生の時間であるといえるでしょう。この時間を大いに活用し、精神的にも情緒的にも豊かな学生生活を送られることを期待しております。同時に新型コロナウイルスの感染拡大が1日も早く終息し、穏やかな日々がもどることを心から祈ってやみません。

令和2年4月1日

愛知淑徳大学 学長 島田修三