ビタミンCだけじゃない!
レモンが持つ抗酸化物質とは。
レモンにビタミンCが多く含まれていて美肌に良いことは有名だが、がんや心筋梗塞、脳卒中などの疾患リスクを低下させる抗酸化作用のある物質も含むことを知っているだろうか?
「それはエリオシトリンという物質です。強力な抗酸化作用があり、脂質の酸化を防ぐことによりさまざまな疾患リスクを低下させます」こう教えてくださるのは、食健康科学部の学部長でもある三宅教授。(株)ポッカコーポレーション中央研究所でのレモンの研究をもとに、地域特産カンキツ果実が含有する機能性物質について調査を続けてきた研究者だ。
カンキツ類に含まれるフラボノイド類、クマリン類、フェニルプロパノイド類の化学構造:
レモンはフラバノン配糖体であるEriocitrin(1)、Hesperidin(5)が高含有である。Eriocitrin(1)の化学構造はフラボノイド骨格のB環の3′位と4′位に隣接する2つの水酸基を有しており、この部位が抗酸化活性に関与している。
「エリオシトリンは、オレンジ類にはほとんど含まれず、最も多いのはレモンで、ライム、スダチなどにも含まれます。どれもそのまま食べるというより、酸味調味料として使われることの多い“香酸カンキツ”と呼ばれるものですね。カンキツ果実は地域によって栽培される原種が異なりますから、それぞれどんな違いがあるのかを調べました。わからない成分があるとHPLC(高速液体クロマトグラフィー)等の分析をして、化学構造を決定していく、という地道な作業です」。
そこで発見されたのが、三重県紀宝地域や兵庫県伊丹地域で栽培されている“マイヤーレモン”に含まれていた新規物質で、三宅教授は“マイヤリン”と名付けた。
「マイヤリンも抗酸化成分の一つで、論文や海外ジャーナルで発表しました。動物の寿命は個体の重さと酸素消費能力で決まるのですが、人間の寿命が約100年と個体重量に対して長いのは、雑食で、かつ、こうした食品成分の発見や研究が功を奏し、医療も発達したからです。まずは賢く食べて抗酸化成分を摂ることが、健康維持につながります」。
マイヤーレモンはレモン類とマンダリン類の自然交雑種と推測されている品種で、酸味が少なく甘みがある。病気を防ぐなら、と丸かじりしたくなる。
健康のために何を食べる?
選択肢を広げる研究。
さらに三宅教授は、研究の面白さはその先に無限の可能性があるからだと語る。
「新しい成分が発見されれば、それが何かの病気に効く薬や健康食品に使われるかもしれないし、美肌に導く化粧品の原料になるかもしれない。基礎研究の成果を論文として世に出し、応用研究をする人へバトンをつなぐ、という経験を、学生にもしてもらいたいというのが私の願いです」。
基礎研究とは、三宅教授のように素材から新規成分を見つけるような研究を指し、応用研究とは、その成分を何に利用すると良いのか、どう調理・加工すると良いのか、というような実用化に向けた研究を指す。愛知淑徳大学では、グループで研究をしても卒業論文は一人ずつ書き上げるというのが通例だ。三宅研究室には、「お茶に含まれるカテキンの研究がしたい」「大豆のイソフラボンについて調べたい」などさまざまな興味を持つ学生が集まってきている。
「私の研究に則して、ビタミンCやクエン酸に興味があるという学生もいますが、どんな興味対象でも大歓迎です。また、私のもう一つの研究軸として、発酵や醸造も扱っています。発酵技術を用いて新たな成分をつくったり、その機能を調べて食品開発につなげたり。私が企業の研究所でレモンの搾取かすやコーヒーかすなどの食品廃棄物の再利用を研究していたように、フードロスや輸入食材の増加など社会問題にも目を向けたテーマも意義があると思います。どんなテーマでも、長年の経験を生かして学生の研究をサポートしますよ」。
食品が持つ力は、まだまだ未知なところも多い。研究によって新規成分が見つかることは、私たちのより豊かな生活につながる。私たちの体は“食べる”ことで保たれている。では何を食べるか?——その選択を決める一端を担う新たな研究が、この三宅研究室から生まれるかもしれない。
三宅 義明教授食健康科学部 学部長
Profile
三重大学大学院農学研究科農芸化学専攻修士課程修了、名古屋大学大学院生命農学研究科にて博士(農学)の学位を取得。(株)ポッカコーポレーション中央研究所で食品機能性成分や食品廃棄物再利用の研究に従事した後、大学教員に。趣味は、500平米ほどある畑での家庭菜園。35~40種類の野菜や果物を栽培し、採れたてを家族で食べるのが楽しみ。調理は主に奥様で、三宅教授はサラダ担当。