随想

草原の輝き(平成21年度 『大学だより』より)

学長 小 林 素 文

 私が皆さんと同じ学生であった頃(40年以上前)、少し遊びたい気分のとき、4畳半のアパートにはテレビも電話もなく(それが普通でした)、勿論携帯電話もあるはずもなく、大学へいっても友人に出会えないこともありました。そんな時、なぐさめとなったのが映画でした。大学進学率10%にすぎなかった頃、1ドル360円の時代、西洋は別世界のようでした。そんなわけで外国映画をもっぱら観ていましたが、青春映画で感動した作品の一つが「草原の輝き」です。
 映画のタイトルともなったワーズワースの詩の一節が、映画の中で2度でてきます。
 1回目は主人公(ナタリー・ウッド、とても美しかった)が、青春の挫折を経験したとき、2回目は主人公が挫折から希望を見い出したとき。
 実に効果的に詩が朗読されており、美しく響く原文が知りたくて、最終回までその映画館に居すわり、3度も観ました。

その原文、

Though nothing can bring back the hour
Of splendor in the grass, of glory in the flower;
We will grieve not, rather find
Strength in what remains behind;

草原の輝き、花の栄光
再びそれは還(かえ)らずとも
なげくなかれ
奥に秘められたる力を見いだすべし
  (ODE:Intimations of Immortalityより 高瀬鎮夫訳)

 皆さんは今が青春、「草原の輝き」の真っ只中です。
 輝きをもたらす光には影がつきものです。光が強ければ、それだけ輝きも影も濃くなります。
 喜び・悲しみ、達成感・挫折、光がもたらしてくれるものを信じ、思いきり大学時代を過ごしてください。
 やがて光もおだやかになった頃、そんな日々が懐かしく、いとおしく、なくてはならない日々であったことに気づくでしょう。