追究

2024年03月14日

創造表現学会主催講演会「知求儀」

2024年1月20日(土)長久手キャンパス ミニシアター

創造表現学会による専門家を招いた講演会『知求儀』。今回のテーマは「問題は、アートなのか?サイエンスなのか?」

 専門分野の第一線で活躍する研究者をお招きして、先を見据えた「今」を語っていただく講演会「知求儀」。創造表現学会が主催するこの講演会は、創造表現学部 メディアプロデュース専攻の藤田良治先生が幹事役となり、講演者のユニークでオリジナリティあふれる研究にはどのような気づきや発見があったか、これからの時代を生きる学生たちに考えるヒントを受け取ってほしいという思いで定期的に開催されています。
 2024年1月20日(土)に、長久手キャンパスのミニシアターでおこなわれた今回の「知求儀」は、講演会と討論会がセットになり、講演会の内容をもとに学生や一般の方からの質問に対して討論会で答える流れで進められました。

【講演会】テーマ「問題は、アートなのか?サイエンスなのか?」
講師:西野嘉章先生(東京大学名誉教授、インターメディアテク顧問)

 講演会では、16世紀のイタリア人が唱え始めた絵画・彫刻・建築をひとつに束ねる「ディセーニョ」という概念(現代の「デザイン」に相当する)により、それまでの宗教美術と異なるものとしてアート(現代の「美術」に相当する)が誕生してきたことを枕にして、アートとサイエンスの関係性に関する議論が始まりました。

 西野先生は、「問うべきは、『アートなのかサイエンスなのか』ではなく、アートとサイエンスを架橋するものだ」というお考えのもと、アート作品やサイエンスの資料を比較しながら、それぞれの特性や影響を受けてまじり合った部分などについて、事例を紹介。模型と美術作品、アートと鉱物、アートと流体力学、アートと数学、アートとエンジニアリング、アートと建築、アートと自然というように、アートと何かを比較することによって、アートとサイエンスの重なりや交わりを伝えます。

 一つの答えを提示するのではなく、さまざまな事例をもとに、聴衆者に考えさせる講演となり、学生にとっては表現についての学びだけではなく、表現するための新しい発想を手に入れることができました。

【討論会】テーマ「この先にある答え」
登壇者:西野嘉章先生(東京大学名誉教授、インターメディアテク顧問)
    小林快次先生(北海道大学総合博物館教授)
    藤田良治先生(愛知淑徳大学表現創造学部准教授)

 西野先生の講演会を受けておこなわれた討論会は、テーマを「この先にある答え」として、質問をもとに、藤田先生をファシリテーターとしてディスカッションが進められました。

 登壇された小林快次先生は、北海道大学に籍を置き、恐竜の進化や生態について研究。特に恐竜が鳥へ進化していく過程や、北極圏といった厳しい環境への適応について研究されています。

 「地域ごとの美に対する考え方の違いはなぜ生まれたのか」という学生からの問いかけが発問となり、⻄野先生は「ヨーロッパにおける国ごとの差異は、自分自身あまり意識したことがない。しかし、古代ヘレニズムの彫刻を見てわかるように、現代のわれわれの考える美の規範は、やはりヨーロッパで醸成されたものと考えられる。身体表現についていえば、美術アカデミーにおける学習は、手足、眼鼻などパーツの表現に始まり全体像に至る。そのようにして身体の美が画定されてきた。このプロセスのなかで地域差が生まれてきたのでは」と回答。それについて小林先生は「私自身もサイエンス×アートという本を出している。アーティストから見た恐⻯のアート作品は、アーティストから見て自然な動きを作品として作っており、恐⻯のパーツを組み立てて作るだけでは芸術作品と言えないと考える」と話されました。

 そこから話は学生への期待へ。⻄野先生が「まだ誰も実現したことのないクリエーションを目指している。アーティスト、研究者などと命名可能な職業を嫌い、そうした既存の枠組みを超えるような、ひと言で表現し難いクリエーションの創出を心がけてきた。学生の皆さんも、クリエーターを目指しているのであれば、そうした考え方をもって生きてほしい」と、創造表現学部で学ぶ学生に向けたメッセージを発すると、小林先生は「挑戦すること。何をしたら良いかわからないと思う学生は、自分の能力を把握できてないから思いつかない。失敗によって、自分の能力の範囲を知って、その上で、自分とは異なる考えの人、自分にはない知識と触れ合うことによって、何をすれば良いかがわかるようになる」と投げかけます。

 最後に藤田先生が「自分の個性を磨きたいと思っているが、何をすればよいかわからない学生にとって、貴重な意見をいただきました」とまとめ、討論会は終了。その後も⻄野、小林、両先生のそばに学生が集まり、お二人とも快く学生の質問に答えてくださいました。学生が刺激と気づきを得られた「知求儀」、その熱気は終了後も続いていました。