創造表現学会主催 「地域に根ざす、映画のチカラ ~「月を見上げる」上映&アフタートーク」 レポート

12月1日(木)、本学非常勤講師でもあり、地域デザイナーの立場から市民映画の監督をされている石丸みどり先生をお招きし、西尾市民映画『月を見上げる』の上映とトークのイベントを開催しました。
映画『月を見上げる』は、石丸先生がこれまで手掛けてこられた西尾市発の映画の第4作。心身ともに引きこもってしまった少年が、祖母の住む島の「廃島」問題をきっかけに、島を訪れ、島の素晴らしさ、祖母をはじめ、そこに住む人々や島にやってきた人々のさまざまな思いに触れ、自分や他者を「ありのまま」に受け入れることの大切さを知るという内容です。

上映後は、石丸先生に加え、映画に出演されたキャストのみなさん——主役の結城望夢さん、祖母役の森本恵美子さん、島に移住したりさ役のとおやま優子さんをお迎えし、さまざまなお話を伺いました。

石丸先生からは、オーディションによるキャスティングや、佐久島でのロケハン、限られた日数かつ少人数のスタッフによる映画撮影、その後の5か月にわたる編集作業と3か月に及ぶカラーグレーディングなど、苦労の連続であった制作秘話を聞くことができました。一方、キャストのみなさんのお話からは、苦労のなかでも映画を届けたいという監督の熱い思いや、その思いを受けとった現場のみなさんが、一致団結していく様子などが手に取るように伝わってきました。
映画完成から時を経て、三重県の賢島映画祭やフランスのシネパリ映画祭、インドのシャンバル国際映画祭と、次々と国内外で受賞を重ねている本作。石丸先生によると、映画を出品するモチベーションは常に、映画に尽力してくれたキャストやスタッフの皆さんの努力に報いたい、という思いからなのだそうです。

参加した学生からも、コメントや質問が次々に寄せられました。

「市民映画」と聞いて思い描いていた素人っぽさという先入観を覆される、高いクオリティと思いの詰まった映画で感動した。映画に出演した皆さんに、どういうきっかけで演技の世界に入られたのか、今後演技者としてどのように思い描いているのかお聞きしたい。

——これに対しては、3人の役者さんから三者三様のきっかけや思いを聞かせていただくことができました。全くの素人から事務所に入り、今回初めての役を獲得したという結城さん、50歳になってから劇団で演じることの楽しさを知り、それがライフワークになっているという森本さん、演劇人として活躍していたが、映像での演技の面白さに目覚め、あらたに演技の勉強をして今に至るというとおやまさん、それぞれの今後の活躍にも目が離せません。

映画内で主人公が宣言する「独立国」という言葉について、考えさせられた。
予定していた撮影期間のなかで撮りきれなかったカットがあったそうだが、これだけは外せないというカットはあったのか、あったとすればどんなカットだったのか。

——ぜひ若い人たちにも、大人たちのお仕着せの言いなりになるのではなく、「独立して自分たちで切り拓いてやる」、という意気込みを持ってほしい。ラストの「月を見上げる」シーンでは、日没のリミットとの闘いだったそうです。これは、はっきりとしないおぼろ月を見ながら、みんなが自らや他者を肯定するという大事なシーンであったため、後日スケジュールの許すメンバーだけで佐久島入りし、追加のカットを撮ったとのこと。

印象的なズームアウトで捉えられるレンガ造りの建物には、何か思いが込められているのか?お聞きしたい。

——この建物は、西尾市の岩瀬文庫という古書ミュージアムなのだそうです。普通なら手に取って閲覧することのできないような古文書にも触れられる素晴らしい施設なので、ぜひ訪れてみてほしいとのこと。このカットには前作の西尾市民映画へのオマージュとしての意味も込められており、前作の出演者に同じ場所で出てもらったのだとか。

自分も創作集団を結成して、映像作品を世に送り出したいと思っている。どうしたら人を巻き込んで実現していけるのか? ぜひ教えていただきたい。

——とにかく自らの情熱を相手に伝えるということ。がむしゃらに自分の実現したい!という思いを相手にぶつけると、相手の心が動き、助けてくれる人が次々に現れるという石丸先生ご自身の経験を語ってくださいました。

石丸先生の思い描く市民映画のあるべき姿とは、クオリティの高い作品を完成させることではなく、映画の制作過程や上映活動を通して、人と人、市民の皆さんが繋がっていくことなのだそうです。
イベント後も、同世代のゲスト結城さんと参加した学生とが、話に花を咲かせる様子が見られ、ここでも新たな「繋がり」が生まれたようです。普段見慣れている商業映画とは違った、映画の持つ新たなチカラを実感する機会となりました。

(文責・小倉)