追究

2026年06月30日

建築学部 建築学科 特別レクチャー 秋吉浩気氏

2026年6月11日(木) 長久手キャンパス 8号棟4階 プレゼンテーションルーム

ShopBotを活用した「建築業の民主化」について
秋吉浩気氏による特別レクチャーが開催されました。

 本学の建築学部は、学生が講義で学んだことを実践で体得できる設備環境が充実しています。8号棟1階には、家具や木工製品などを制作するために整備された「ものづくり工房」を設置。コンピューター制御で高精度な加工が可能な3次元CNCルーター「ShopBot(ショップボット)」をはじめとするプロ仕様の最新型設備を揃えています。学生たちが実際に手を動かしながらものづくりへの知識を深め、社会に出てからの即戦力となる人材育成に力を入れています。

 2026年6月11日(木)には、デジタル技術を駆使した次世代の建築を開拓する建築集団・VUILDの代表取締役CEO 秋吉浩気氏をお迎えした特別レクチャーを長久手キャンパスで開催しました。本学でもShopBotを導入しており今後の積極的な活用を推進するために、最前線でデジタルファブリケーションを用いた実践に取り組んでいるVUILDにお声がけさせていただき、今回の講義の開催に至りました。レクチャーには建築学部の学生と講師陣が参加し、VUILDがShopBotを通じて取り組んできた事業内容を拝聴しました。

 秋吉氏は芝浦工業大学工学部建築学科を卒業し、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科X-DESIGN領域にてデジタルファブリケーションを専攻。2017年にスタートアップ企業としてVUILDを創業。ShopBotの普及を進め、現在は全国の工務店や製材所、自治体に約300台導入されています。活動の背景として、秋吉氏は「林業の産業構造の難しさ」を挙げました。木を切って消費者の手に届くまでに加工業者や商社を挟むことにより、十分な利益を得ることが難しい点を挙げ、「生産者が機械を使って自分たちで加工し、販売までできる形にすることで、多くの利益が得られるように」との思いから、普及を進めていると話します。

 次に、秋吉氏はShopBotの活用事例を挙げました。普及先の3割に該当する教育機関では、ShopBotの使い方を覚えた大学生が小学生に使い方を教えているシーンが見られるようになっていること。また、大学や高校でShopBotを覚えた学生が内装什器系の会社へ入社してすぐ活躍を見せていることなど、聴講する学生たちが身近に感じられるような事例を伝えました。

 続いて秋吉氏は、建設業界が現在抱える深刻な課題として大工や熟練工などの人材不足を指摘。建築資材費や人件費が上がり続ける中で、「これから武器になるのはやはりデジタル」と語気を強めました。まず、これまで時間をかけていた図面や構造計算、見積もりがAIを活用すれば数分で作成できること。また、ShopBotを利用すれば、人の手で加工することが難しい特殊な形状も3Dスキャンで可能になること。さらに、ロボットであれば24時間稼働できることなどを挙げ、「VUILDではこれらのデジタル技術を駆使した設計、加工、施工をおこなっている」と述べました。

 これらを踏まえて、ShopBotを使ったさまざまな建築事例についても話されました。始めは小さなバス停やパビリオンをつくっていたところから、徐々に大きな建物をつくるフェーズへ移行。富山県の山奥の村で、山菜採りなどで訪れる人たちの宿泊施設として建てられた「まれびとの家」や、香川県の小豆島でオリーブ製品を体験できる宿泊施設である千年オリーブテラス「The GATE LOUNGE」などの建築実例を紹介しました。製材機やShopBotを現地に持ち込み、現地の木材を使ってどのように建築するかを考え、施工したのかを詳しく語る中で、「施主である現地の農家や村の人にもShopBotを使って木材の加工を手伝っていただいた」というエピソードも披露。ShopBotを使うことで、建築の専門家でなくても住宅の施工が可能になっていることを伝えました。さらに発展し、デジタルファブリケーション技術を用いて施主が主体となって設計から施工までをおこなう住宅キット「co-build(コビルド)」をリリース。これまでの建築様式の常識をガラリと変え、「建築業の民主化」を掲げた事業展開をおこなっていることも紹介されました。

 最後に秋吉氏は、「学生の皆さんには、単なる小屋や家具だけでなく、建築物もこの学校内の工房でできるということがわかってもらえたら。また、今回のレクチャーをきっかけに、ShopBotを使って、家具でも何でもいいのでつくってみてもらえたらいいなと思います」と、今後の学びを促しました。

 質疑応答では、学生から「建築が民主化していくと、私たちじゃなくてもデザインできる方が増えていくのではないか。そうなると、建築を学んだ私たちだからできる仕事はあるのでしょうか」という質問があがりました。秋吉氏は、「AIで難しいのは、対話力。いろんな人の意見をまとめて、方向性を示していくには、知識や経験に加え、ニーズの向こう側を見て、導いていくプロの視点が必要です。AIに任せられることは任せ、本質を追究するプロフェッショナルな力を備えていくことが大切です」と、デジタル社会における学生たちの未来への不安に応えました。

 今回の特別レクチャーを受けた学生たちが、建築業界のデジタル化を踏まえて本質的な建築の視点を身につけながら学んでいくことが期待されます。