追究

2015年06月15日

平成27年度第1回人間情報学部講演会「公共図書館は人と情報をつなぐ:その現状と課題」が行われました。

講演会「公共図書館は人と情報をつなぐ:その現状と課題」

平成27年5月20日(水) 長久手キャンパス7号棟741教室

公共図書館が進みゆく未来を共に考える、意義深い講演会となりました。

 変わりゆく人間社会の未来を予測できる力、さまざまな情報資源を的確に活用できる力、ヒューマンフレンドリーな情報社会に貢献できる力――。こうした時代が求める力の修得を目標に、高度情報化社会のあらゆる分野で活躍できる人材の育成をめざしている、人間情報学部。文学部 図書館情報学科を前身とし、司書養成にも実績があります。
 5月20日(水)に開催された人間情報学部講演会では、「公共図書館は人と情報をつなぐ:その現状と課題」をテーマに、図書館情報学の権威である慶應義塾大学名誉教授・田村俊作先生に語っていただきました。人間情報学部の2年生を中心とした学生約100名だけではなく、田村先生の講演をぜひ聴講したいと愛知県立図書館、安城市中央図書館、一宮市立図書館、長久手市中央図書館の方々もお越しくださり、会場は開演前から熱気に包まれていました。
 今回の講演会で田村先生は、公共図書館がいま、どんな方向に向かおうとしているのか、それを指し示す具体例を交えて説明してくださいました。学生や教職員、公共図書館の方々それぞれにとって、現在の公共図書館を知り、今後果たすべき役割やサービスのあり方について考えを深める有意義な時間となったことでしょう。

人々に最も親しまれる公共施設・図書館の課題とは。

 「公共図書館は、いま、方向転換の時期を迎えています」と語り始めた田村先生。戦後日本の公共図書館の歩みから解説されました。
 1950年代、全国に800館弱あった公共図書館は"受験勉強をする場所"として人々に認識されていました。そうしたイメージが急速に変化したのが、1960年代後半から1970年代。豊富な資料が並び、誰に対しても開かれ、気軽に利用できる、"まちの読書施設"という新たな図書館像が形づくられました。
 2014年現在、公共図書館は全国に3200館以上あり、年間の貸し出し資料は約7億冊にも及びます。「いまや公共図書館は、子どもからお年寄りまでさまざまな人に親しまれ、よく使われる公共施設となりました。これは、1960年代以降の図書館がなし遂げた成果といえるでしょう」と田村先生。そして公共図書館が今後さらに発展するための課題として、「人と情報をいかにつなぐか」という点を挙げられました。これからの高度情報化社会において人々が情報を求めたとき、一冊の本の中、一館の図書館の中だけで完結させるのではなく、多様な資料や外部の専門機関につなぎ、いかに最適な情報へと導くのか――いま、公共図書館には新たな役割が求められているのです。

"まちの読書施設"から"地域の情報拠点"へ。

 新たな公共図書館を考える手がかりとして田村先生は、千代田区立図書館(東京都)、愛荘町立愛知川図書館(滋賀県)、紫波町図書館(岩手県)、長崎市立図書館(長崎県)、武雄市図書館(佐賀県)の事例を写真や映像を交えてご紹介くださいました。「市民の思いを汲み取った新しい資料の発掘、他機関との連携による多様なサービスの展開、書店やカフェなどを併設した新しい運営形態など、各館がさまざまな試みをしています。今、何が求められているのか、何が課題となっているのか、その解決のためにどんなサービスを組み立てるのか。日本各地の公共図書館は地域のニーズに対応できる敏感な運営をおこない、"地域の情報拠点"へと各地の特性に応じた形で転換し、人々の暮らしに貢献しています」と田村先生は解説しました。
 図書館に務める司書や職員が持つ構想力や企画力、図書館が持つ資料や人が集まる空間を活かし、運営体制やサービスを柔軟に変えていくことが、公共図書館が秘める新たな可能性を花開かせることにつながるのでしょう。そうした示唆に富んだ今回の講演会は、司書志望の学生に限らず、人間情報を学ぶすべての学生にとって意義深いものになりました。

《交流会》
田村先生と公立図書館の方々が交流し、図書館に関する情報や思いを共有しました。

 講演会に続いて、田村先生と愛知県立図書館、安城市中央図書館、一宮市立図書館、長久手市中央図書館の方々、本学教員との交流会が、人間情報学部教授・菅野育子先生のナビゲートのもとでおこなわれました。まずは、人間情報学部の3D設計演習室やユーザビリティ実験室、聴覚情報実験室など学内の施設へご案内。田村先生はかつて本学図書館情報学科の集中講義をご担当していたこともあり、久しぶりにお越しになられた長久手キャンパスの変化に感心なさっていました。その後、会議室にて田村先生を囲んで和やかに談話。各館の現状や取り組んでいる新たな事業、本学や地域の学校図書館との連携などについて語り合われました。田村先生のご意見をお聞きしながら、公共図書館の方々や本学教員がよりよい図書館運営、よりよい人材育成に向けて、情報や思いを共有する貴重な機会となりました。