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式辞

2023年度(令和5年度)卒業式祝辞

ご卒業おめでとうございます。
本学の理念は「違いを共に生きる」です。
「違いを共に生きる」とは別の言い方をすれば、調和のとれたモザイク模様を形成していくことともいえましょう。大きいの小さいの、丸いの四角いのと、様々の個性を持つ一片一片が集まり、美しいモザイク模様を構築する、そして、一片一片がそれぞれの輝きを放っている。それが「違いを共に生きる」ことだと思います。本学で学び卒業される皆さんには、それぞれに輝こうとしているそれぞれの個性を認め、自分らしい輝きで社会を支えていって下さることを期待いたします。

本日は、ある障害者Aさんのお話をします。
Aさんは6歳の時脳性まひにかかり、生涯にわたり車椅子での生活を余儀なくされました。
日本の大学を卒業後、アメリカの自立生活センターで働いた後、日本に戻り、大学院を卒業し、研究所をへて大学教授となられました。
Aさんとお話をする機会があり、私が「共に生きる」について尋ねると、次のように語ってくれました。

私は「共に生きる」に2つの意味をつけています。一つは「障害を持っている者と、持っていない者が共に生きる」こと。もう一つは「障害を持っている者が障害と共に生きる」ということです。
私は、アメリカに行った26歳までは、障害が嫌いでした。「障害がなかったらもっといろんな楽しいことができるのに」と思い続けていました。でも、アメリカの自立生活センターでは、生き生きと活動している人達がいて、その人達は障害を憎んでいない、障害と共に楽しく生きている。その時から、私は障害を可愛がりながら生きて行こうと決心しました。
障害が嫌いな頃は自分の障害と喧嘩していたと思います。何かうまくいかないときにはすぐに障害のせいにする。たとえば恋愛に失敗したときは、障害がなければうまくやっていけたのに、と思う。こういう事をくりかえしているうちに障害が私を攻撃してくるのです。それで緊張が強くなり、体もこわばる。でも障害と仲良くできるようになってからは、緊張もこわばりもなくなりました。
先日17歳くらいの男の子が言うんです。「僕もてないんです。障害が無かったらもてるのに」私はその子の話を1時間ほど聞いて、こう言いました。
「今の君は障害が無くても、もてないよ」

障害者が障害と共に生きることの大切さを語るAさんのたくましさに感銘を受けました。
ひるがえって、障害のない健常者のことを考えてみると、健常者が完全なわけではありません。
健常者も皆自分の嫌いなところや嫌なところを持っています。その中には自分の努力ではどうしようもないものもあります。たとえば親は選べませんし、受け継ぐ遺伝子も選択できません。Aさんの言っていることは「自分が嫌いだと思っていることでも、どうしようもないことなら、個性として大切しなさい」ということだと思います。個性を大切にすることから、自らを尊ぶ心、自尊心が生まれ、この世に一つしかない自分が自分らしく生きることにつながっていくのだと思います。
さらにAさんに若者へのメッセージを聞くと。
「わたしは頑張りすぎるなといっていますが、本当にここ一番は頑張らなくてはいけません。幸せというのは自分の力です。人は幸せにしてくれません。本当の幸せは追いかけていかないとだめです。待っていても誰もこない。夢を持つことから始めたら幸せな人生が歩めるんじゃないかな」

皆さんは今卒業という大きな節目を迎えています。コロナは終息にむかっていますが、ウクライナ、パレスチナなど、世の中の状況は必ずしも明るいとはいえず先行き不透明です。しかし、どのような時代になろうとも、自分の個性を大切に、自尊心をもち、夢を抱き、自分らしい生き方を貫いていってください。そうすることで、大きかろうが、小さかろうが、モザイク模様の社会のかけがえのない一片として光輝くのだと信じて疑いません。
人はさまざまの出会いと別れを繰り返していきます。そして、その一つ一つがその人の一生を作り上げていきます。
皆さんも縁があり、愛知淑徳と出会い、多くの友人、先生、学問に出会いました。そして、今新たな出会いを求めて旅立たれます。
今日を節目として、皆様の洋々たる未来が開けていくことを心よりお祈りいたします。
本日はおめでとうございます。

令和6年3月18日
理事長 小林素文