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レポート

カナダ・米国東海岸視察レポート(その2)

10月10日

 昨晩遅くニューヨークに着く。エアー・カナダの予定の便がエンジントラブルにより運行中止となったため、別便でしかもモントリオール経由となった結果、2時間遅く、12時過ぎにニューヨーク到着。こうした時の一人旅では、いささか強引な英語での交渉力が必要となる。無事到着してほっとする。
 今回の中部経済同友会視察団は、山本幸助トヨタ自動車副社長を団長とし、最近ワシントン、ニューヨークなど東海岸で急展開しているIT革命の実情を視察することを目的としている。
 副団長の加藤千麿名古屋銀行頭取、磯部克日本ガイシ副社長をはじめ、名古屋を中心とする企業の経営者25名の団員である。昨晩遅くニューヨークに着く。エアー・カナダの予定の便がエンジントラブルにより運行中止となったため、別便でしかもモントリオール経由となった結果、2時間遅く、12時過ぎにニューヨーク到着。こうした時の一人旅では、いささか強引な英語での交渉力が必要となる。無事到着してほっとする。
 今回の中部経済同友会視察団は、山本幸助トヨタ自動車副社長を団長とし、最近ワシントン、ニューヨークなど東海岸で急展開しているIT革命の実情を視察することを目的としている。
 副団長の加藤千麿名古屋銀行頭取、磯部克日本ガイシ副社長をはじめ、名古屋を中心とする企業の経営者25名の団員である。


IBM:フィリップ・トンプソン副社長

 今日は主にIBMの視察をする。最初に訪れたIBMパリセード・エグゼクティブ研修所別ウィンドウで開きます。も仕事が始まっていた。 ここではまず、ビジネス改革・広報担当福社長であるフィリップ・S・トンプソン氏からのプレゼンテーションを聞く。
  IBMは、世界最大のコンピュータ会社ではあるが、一時コンピュータのダウンサイジンで大幅に業績を落とした。しかし、1993年に就任したルイス・ガースナー会長兼LEOの指導により復活した。そのガースナー会長を、ナンバーツーとして支えてきたトンプソン氏のプレゼンテーションは、迫力のあるものであった。トンプソン氏はIBMを鯨にたとえて話し始めた。別ウィンドウで開きます。「7年前、IBMは大きいが小回りのきかない鯨であった。これをいかにイルカのように時代の流れに俊敏な企業に変えるかが課題であった。とにかく、faster and smarter(より迅速により賢明に)を旨とした。そして、simplicity(何が大切なのかを単純化すること)を合言葉とした。つまり、大切なのはカスタマー(お客)であり、その最大満足を与えるためにすべてを単純化して考えた。その結果、IBMの製品のある部分について、他社の技術の方が優れていると考えれば、それを導入することとした」と、淡々とスライドを交えて語った。
  しかし、IBMの製品に他社の技術を導入するなどは、世界中から優秀な研究者を集めた研究所を有し、コンピュータのパイオニアとして世界をリードしてきたこれまでのIBMでは考えられなかったことである。
  「カスタマーの求めるものを知るべく、サービス部門にも力を入れてきた。その結果としてサービス部門の売上げが全体の5割を占めるようになった」と続ける。
  IBMはメーカーだと思っていたが、総売上げ875億ドル(9兆4千億円)の半分をサービス部門が占めているとは驚きである。
  特にわずか7年で鯨をイルカに変えたコンセプト、「faster and smarter」,「simplicity」はすべての経営に当てはまるものであろう。


IBM:日高研究員

  次にIBMトーマス・J・ワトソン研究所の日高一義氏のプレゼンテーションを聞く。日高氏は東京工業大学で修士、早稲田大学で博士号を取得し、1999年度のIBMにおける最も傑出した研究業績の賞を授与された世界的な研究者である。
  「IBMの研究者は70年代は研究だけであった。80年代は企画部門と研究部門が一体となったジョイントプログラムが主流となった。90年代はカスタマーを見据えた研究となった。次年度からはe‐ビジネスにかかわる研究が主流となろう」と語る。
  研究員の役割も時代と共に変化しているのだ。また、日高氏によると、IBMの研究員は主に、世界各地のユダヤ系とインドと中国の出身者が占めているとのこと。世界の頭脳を結集するグローバル企業の真髄を垣間見た。


フォーブス氏所有のクルーザー

 夜は雑誌「フォーブス」で有名なフォーブス社のCEO(最高執行責任者)であるティモシー・C・フォーブス氏より、クルージングの招待を受けた。
 当日は、寒かったせいか、空気が澄んでおり、マンハッタンの夜景別ウィンドウで開きます。自由の女神別ウィンドウで開きます。が美しく輝いていた。トヨタの副社長山本幸助団長(中央、右隣は磯部克日本ガイシ副社長、左隣は鈴木正臣矢作建設専務取締役)別ウィンドウで開きます。もご機嫌である。通訳をされた方別ウィンドウで開きます。は、本学の松本青也教授とニューヨークのコロンビア大学大学院で同級であったとか。世界は狭いものである。

10月11日

午前中、東海銀行のアメリカ支社長兼ニューヨーク支店長の秋山貞雄氏の講演を聞き、その後ワシントンに移動する。
 秋山氏からは戦後最も長い、9年以上にも及ぶアメリカの景気拡大は、次の要因からなっていることなどを聞く。
 (1)ソビエトの崩壊→世界一の強国の出現(国防費削減→財政赤字削減→金利低下)(2)巧みな財政・金融政策(リーガノミックス、グリーンスバーグ氏の巧みな綱捌き)(3)人口の持続的増加(人口千人当たり出生数:アメリカ15.4人、日本9.7人)(4)ITを始めとする技術革新 (5)グローバルスタンダード化(英語圏では圧倒的に有利)
 こうした好況のため、実質的には失業者もなく、ニューヨークの治安は劇的に良くなったとのこと。 講演の後、ワシントン移動までの自由時間1時間を利用して、久し振りにニューヨークを歩き回った。なるほど、治安は良くなり、タイムズスクエア別ウィンドウで開きます。でカメラを撮っていても何の危険も感じない(以前であれば、カメラをひったくられていただろう)。
 まさに好景気である。国連ビルの後ろに新しい高層ビル別ウィンドウで開きます。が加わっていたが、これも建設中に完売となったとのことである。

10月11日

 午前中にまず、AOL(アメリカ・オンライン)を視察する。AOLはワシントン郊外、ダレス国際空港近くの工業団地にあった。この団地にはAOLやワールドコムなどIT産業が広大な敷地に集積している。そのため、片道4車線に広げた高速道路ですら混雑し、予定より30分遅れてAOLに着く。
  AOLは、1985年に設立され、2000年3月現在で加入者2,200万人を擁するアメリカ最大のインターネットプロバイダー会社であり、消費者向けサービスでは圧倒的なトップの座を保っている。
  AOLに着く別ウィンドウで開きます。と、広大な敷地に3階建程度の建物がずらりと並んでいる。ここ数年、建て増ししてきたとのこと。たった15年で売上高48億ドル(約5000億円)の巨大企業に成長してきたことにインターネットビジネスの凄さを感じた。
  AOLでは国際戦略担当社長のジョージ・ブランデンバーグ氏(左は通訳)別ウィンドウで開きます。の説明を聞く。
  「AOLは初期の頃から一般大衆向けサービスを指向してきた。初心者でも簡単に加入できるソフトの配布から始まり、コンテンツをわかりやすいチャンネルに分類し、インスタント・メッセージでコミュニティーをつくるなどのやり方で加入者の囲い込みに成功した」と述べる。
  団員から「成功の秘訣を1つだけ挙げるとすれば」と質問されると、「他のプロバイダーがゲーム、ショッピング、ビジネスなどの領域に焦点を絞ったのに対し、会員間のコミュニティー形成に特化したことがAOLの成功の秘訣だ」と答えた。
  インターネットでのコミュニティーは従来の個人・地域・国家・世界といった段階的な広がりを一気に越える。
  ブランデンバーグ氏は、片手に入るタバコの箱程度の大きさの機械を取り出し、「これはモバイルメッセンジャーで、従来のインターネットの機能が全て果たせる。これが一般に普及するようになれば、さらにe‐ビジネスは広がる」と言う。
  通訳が「私にいただけませんか」と冗談で言うと、「あげてもよいが、使えませんよ。現在、パスワードを2時間おきに変えているから」と言う。まさに生き馬の目を抜くビジネスであると実感する。


ワールドコム(UVネット)

 続いて訪れたワールドコムは、1983年に設立された世界最大のバックボーン系ISPである。卸売りと企業顧客を対象に世界50カ国、顧客企業数7万社、全世界で2,000以上の接続点を持っている。
 同社はベンチャーからスタートし、企業買収で事業を拡大し、ついにAT&Tに次ぐ大手企業となった、アメリカ通信業界の風雲児である。ワールドコム(UVネット)はAOLからバスで5分の所にある。
  ロバート・B・ハーネットワールドコム・UVネット社長(左は質問をする山本副団長)別ウィンドウで開きます。から話を聞く。
 「ワールドコムは、通信会社の生き残りとして規模の拡大が必要不可欠との立場をとっている。ローカル→グローバル→ローカルと様々なネット網を張り巡らせており、現在は東京と大阪でもそれが進んでいる」とのこと。
 同社は設立後まだ20年たっていないのに、ワールドコム全体の売上げは333億ドル(3兆5千億円)、急成長を続けているインターネット部門のUVネットが35億ドル(4000億円)と、巨大企業になった。
 団員の何人かが、来日の折には是非訪ねてほしいとビジネストークを繰り広げていた。いや応なく時代はグローバルな方向へと突き進んで行く。
 ワールドコムの中にケネディ宇宙センターのような場所別ウィンドウで開きます。があった。そこでは、全世界のワールドコムのネット網が正常に作動しているかを確認しているとのこと。やがて、東京や大阪もここでチェックされるわけだ。


加藤幹之氏

午後2時頃ワシントン市内に戻り、富士通ワシントン事務所長・米国弁護士加藤幹之氏のプレゼンテーション別ウィンドウで開きます。を聞く。1990年代後半の日米経済状況の比較、2000年国際競争力報告国別ランキング、情報化革命⇒情報化社会など豊富な資料で、現在のインターネット社会とその課題についてわかりやすく説明された。 加藤氏は弁護士でもあるだけに、インターネット社会での国境を越えた法的リスク管理、著作権などの知的財産の問題など、問題が山積みされている現状の説明は興味深かった。


CSIS

 本日の最後はCSIS(戦略国際問題研究所)の訪問である。
 元在日米国大使館筆頭公使であるウィリアム・ブレアー氏を所長とするCSISは、軍事、国際経済、安全保障に関するシンクタンクである。ブレアー氏を中心とするパネルディスカッション(左がブレアー氏)形式別ウィンドウで開きます。で日米関係を中心にプレゼンテーションが行なわれた。その後、団員との討論があり、日本・中国・朝鮮半島などをめぐる、かなり際どい政治問題のやり取りを、興味深く聞いた。詳細は割愛するが、大変微妙な問題となると、ブレアー氏がstrategic ambiguity(戦略的曖昧性)という言葉を繰り返していたのが印象に残った。


ワシントン

 視察団は明日からの週末はバハマに渡り、団員同士の親睦を図ることになっているが、私は土曜日に大学院及びAO入試があるため、団から離れて一人名古屋へ向かうことになった。飛行機は夜9時45分発で少々時間があるため、1時間ほどワシントンを散策する。
 ワシントン記念塔を臨むウェストポトマック公園別ウィンドウで開きます。では、ベビーカートで散歩する女性がいたり、ポトマック川ではボートをこいでいたり別ウィンドウで開きます。と誠にのどかである。ここワシントンも治安が良くなったことに安心して夕方に人通りの少ない公園を歩く。 しかし、ホワイトハウス別ウィンドウで開きます。の裏庭では、中東問題での記者会見別ウィンドウで開きます。が行なわれており、それが全世界にテレビ中継されているのだ。やはり世界の政治の中心地であることに変わりはない。


ロスアンゼルス経由で名古屋へ

 ワシントンからロスアンゼルスへは所要時間5時間20分、時差3時間である。アメリカは広い。

今回の視察を振り返って

アメリカでインターネットが急速に拡大している背景には次の4つが挙げられる。

(1)政府の後押し―情報ハイウェー戦略
(2)ベンチャー企業を支える社会風土
・アメリカ特有の進取の気象→ベンチャー企業の輩出
・リスクテークをいとわないベンチャーキャピタリストの存在とそれを支える税制
・NASDAQの存在→上場基準が緩やか
(3)インターネット関連インフラの充実
・安価なインターネット接続料→20ドル/月の定額料金
・低廉な電話代→市内通話でアクセスポイントに接続できるため、基本料金の範囲内でインターネットを利用できる
(4)インターネットの世界では英語が公用語

 こうした背景により、繁栄するアメリカ東海岸のIT事情を3日間視察したわけであるが、faster and smarter(より迅速により賢明に)、simplicity(何が大切か、そのために何が必要かを単純化して考える)により、10年足らずで巨大な鯨を小回りのきくイルカに変身させたIBM。わずか15年ほどで何千億、何兆という売上のある企業に成長したAOLやワールドコム。こうした現場のトップ経営者達の生の声を聞き、また日本でのトップ経営者達の多くが英語で鋭い質問をし、それに的確ではあるが企業秘密については巧みにそらした回答をするやりとりは、学校経営者の私には誠に新鮮なものであった。
  今回は成功例ばかりを見てきたが、99年には2000億円の売上げを誇ったバリュー・アメリカコムが今年8月に倒産した。今をときめくアマゾン・コムであっても99年は売上げが21億ドル(2300億円)であったが、約5億ドル(550億円)の赤字である。AOLですら数年前は経営危機が叫ばれていたのだ。
  いずれにしてもインターネットはアメリカ社会に定着した。今後、強力にIT基盤整備を計画する日本、そして世界中にインターネットは普及するだろう。それは「地理的制約からの開放」「政府・社会の役割の変化」「情報知識が価値の中心」となる社会をもたらすのであろう。国を越えたコミュニティーの構築、国を越えた情報知識のやり取りなど、その意味では便利で豊かな社会になると言えよう。
  そんなことを思いつつ眼下を見るとロスアンゼルスの街が見える。いつもながら飛行機から見るロスの夜景は綺麗である。しかしこの美しさを保つには膨大なエネルギーが必要だ。エネルギー消費には環境問題がつきまとう。今乗っている飛行機も大量のガソリンを消費している。便利さや、人工的な美しさを光とすれば、それが引き起こす環境問題は影であろう。
  今回は、インターネットの光の部分を主に見てきたが、光の輝きが燦然としているだけに、その影の部分も際立っていよう。それは何なのか、そんなことを考えているうちに、ロスの広大な空港の光が見えてきた。