随想

見えない配達人(平成14年度 『大学だより』より)

学長 小林 素文

 ようこそ愛知淑徳大学へ。在校生、教職員こぞって皆さんお一人お一人を心より歓迎いたします。
 桜の花が咲き、これから次々と花々が開き、木々の新緑も美しくなっていくこのよき季節に皆さんをお迎えできることを何よりと存じます。
 21世紀となり二年目。昨年の同時多発テロ、日本が初めて経験するデフレ社会。日本そして世界は目まぐるしく、加速度的に変わりつつあります。
 しかし、自然界は不思議なもので、毎年、卒業式には桃の花がひらき、入学式には桜の花が咲きます。
 変化が激しく先行き不透明な21世紀二年目ですが、大学では、毎年忘れることなく咲き、そして散っていく花々を愛でる感性とゆとりを持ちつつ、皆さんお一人お一人の夢を育んでもらいたいと存じます。
 先日ある新聞社のインタビューで「学生に望むことは」と聞かれ、「自分らしく生きてください。既定の価値観にしばられずに、自分がいいと思ったら、そこへ行けばよい。自分の居場所、一番頑張れる場所があるはずで、地位だとか、世間体などは関係がない。そうすれば自分も幸せになれるし、周りも幸せになれると思います。」と答えました。
 本学での日々が皆さんにとって実り多いことを心よりお祈りいたします。
 最後に、茨木のり子作「見えない配達人」の前段を紹介し、歓迎のことばとします。

三月  桃の花はひらき
五月  藤の花々はいっせいに乱れ
九月  葡萄の棚に葡萄は重く
十一月 青い蜜柑は熟れはじめる

地の下には少しまぬけな配達夫がいて
帽子をあみだにペダルをふんでいるのだろう
かれらは伝える 根から根へ
逝きやすい季節のこころを

世界中の桃の木に 世界中のレモンの木に
すべての植物たちのもとに
どっさりの手紙 どっさりの指令
かれらもまごつく とりわけ春と秋には

えんどうの花の咲くときや
どんぐりの実の落ちるときが
北と南で少しづつずれたりするのも
きっとそのせいにちがいない

秋のしだいに深まってゆく朝
いちじくをもいでいると
古参の配達夫に叱られている
へまなアルバイト達の気配があった