追究

2026年02月25日

創造表現学会主催講演会 知求儀 「メディアを超えた先に何があるかーミュージアム体験の長期記憶研究によるアプローチ」

2025年12月6日(土)長久手キャンパス8号棟825教室

記憶に残るミュージアム体験エピソードを分析し、
広い視野で評価基準を探求しました。

 創造表現学部 創造表現学会では、第一線で活躍する方々をお招きし、研究について語っていただく講演会「知求儀」を定期的に開催しています。2025年12月6日(土)に開催された講演会では、北海道大学総合博物館の湯浅万紀子教授に登壇いただきました。湯浅教授はミュージアム体験の記憶に着目し、人々に与えるインパクトを長期的に評価するという、ユニークな調査研究をされています。本学の藤田良治准教授はこの研究に研究分担者として長く関わられています。

 講演の冒頭で湯浅教授は、ミュージアムには資料を収集・保存して調査研究をし、その成果を広く社会に伝えるという役割があると説明しました。また、北海道大学総合博物館は、社会に開かれた大学の窓口としても機能し、市民と博物館を学生の活動を通してつなぐさまざまなプロジェクトを展開しています。学生たちが博物館見学のガイダンス映像を制作したり、ミュージアムグッズを企画したりするなど、さまざまな取り組みの事例を紹介いただきました。
 今回の講演の本題は、本学学生108名から収集したミュージアム体験エピソードの分析です。ここでいうミュージアムには、動物園、植物園、水族館も含まれています。「幼い頃から訪れたことのあるミュージアムの中で、最も印象に残っている体験について、200字程度で綴ってください」という問いを学生に投げかけ、その回答として寄せられたミュージアム体験の記憶を抜粋して読み上げていきました。

 続いて、ミュージアム体験エピソードを「ミュージアムのジャンル別」「同伴者、学芸員・職員、他の来館者とのエピソード」「展示空間・建物・環境」「グッズや食事」「来館前の準備や道のり、期待感」「時を経て語られる『今』のエピソード」などのトピックごとに紹介していきました。
 「もう一度行くなら別の友達と訪れ、また違う考え方などを共有できたら面白そう」と未来を描く声や、「今でも半年に1回通うほど好きになった」と影響力を語るエピソードもありました。学生108名の体験談から見えてきたのは、ミュージアムで得られるものは多様であり、極めて個人的な意味をもつということです。湯浅教授は「博物館の評価指標は、来館者数や入館料収入、展覧会開催数、コレクション数、メディア報道数、学芸員の研究業績などがあります。これらは重要な指標ではありますが、みなさんの体験はこういった評価にはなかなか反映されません」と述べました。

 ミュージアムの本当の役割とは何か。収集・保存、調査研究、展示・教育の先に何を求めるのか。来館した人にアーティストや科学者になってもらうことを目的として、美術館や科学館が存在しているのか。そうした問いを立てることで、ミュージアムの役割が見えてくるといいます。「博物館教育」や「自発的な学習」などの言葉から創造される以上に、ミュージアムでの体験は多様であり、一つの枠には収まりません。体験は時を経て強化されたり、変化したりすることもあります。湯浅教授は、「ミュージアムに行こうと考えが浮かんだ瞬間から、何年も経った後に思い出すまでをトータルに体験と捉え、ミュージアムが社会に必要かどうか、どのような役割を果たしているかを改めて考えていただきたいです」と伝えました。

 講演の最後に、学生たちはさまざまなミュージアム体験のエピソードに触れて感じたことを、シートに記入しました。湯浅教授は、「今日の講演会でみなさんがエピソードを共有したことによって、現在、そしてこれから出会うミュージアムとともに、新しい未来をつくっていくことを期待しています」と語り、講演を締めくくりました。
 校外学習などで何となく博物館を訪れ、後になって「行ってよかった」と感じることがあります。過去・現在・未来と考えてみると、ミュージアム体験に対する価値観は変わっていきます。今回の講演会では、視野を広げて評価する研究の着眼点などに触れることで、ミュージアムの意義を改めて考え、思考を深める機会となりました。