追究
2026年04月07日
戦後建築の傑作を救う~イタリアからの経験
2025年度 展示会・講演会・発表会 建築学部(2025年4月開設)

2026年2月22日(日) 栄ナディア・パーク9F SK904会議室
イタリアのモダニズム建築の保存・活用事例を通して、
日本の戦後建築作品の未来を考える講義がおこなわれました。
本学の建築学部では、学内での講義にとどまらず、各分野の第一線で活躍されているプロフェッショナルから直接お話を伺う機会も積極的に設けています。その一環として、2026年2月22日(日)、栄ナディア・パークで講演会「戦後建築の傑作を救う―イタリアからの経験」を開催しました。


講演内容は、イタリアからゲストを招き、同国におけるモダニズム建築の保存・活用の課題を具体的な事例を交えて紐解いていただきました。
登壇したのは、20世紀建築の保存に関する多くの研究業績を有するシモーナ・サルヴォ(Simona Salvo)准教授[ローマ国立・サピエンツァ大学]と、パスクアーレ・クッコ(Pasquale Cucco)准教授[サレルノ大学建築土木学部]のお二人です。本学からは、司会を建築学部長の清水裕二先生、コメンテーターを溝口正人先生、イタリア語から日本語への同時通訳をヴェッキ・ピエトロ先生が務めました。学生だけでなく一般の方も参加可能なイベントで、100名の定員が満席となりました。
本講演の背景には、戦後の日本を代表する世界的建築家の傑作が、その価値を広く知られないまま取り壊され、新しい建物に建て替えられている現状があります。戦前の豪華な建物は歴史的で貴重なものと扱われやすく、保存への動きも活発に見られますが、戦後のモダニズム建築は鉄筋コンクリートやガラスでできた合理的で簡素なデザインであることから、あまり価値が認知されにくい傾向があります。対してイタリアでのモダニズム建築の保存・活用に関する取り組みが多いです。
サルヴォ先生は「ヨーロッパの建築保存の思想は初期キリスト教の時間観が色濃く根付いている」と言及。「過去は再び繰り返されることがなく、だからこそより価値の高いものになる。これが『オーセンティック』な(本物の)物質へのイタリアのこだわりを生じさせた要素の1つである」と紹介しました。また、クッコ先生は、建物を「命のない物質」として扱うことへの危険性を警告。有名な建築家であるル・コルビュジエが唱えた言葉「生活はいつも正しい」を例に挙げ、「言い換えると、建築を利用する人々がその価値を認めない限り、過去の姿をそのままに保存する意義が失われるということ」と考えを示しました。
次にサルヴォ先生とクッコ先生は、モダニズム建築の保存における特有の課題を具体的に説明しました。サルヴォ先生は代表例として、ミラノ市にある経済成長期の超高層ビル「ピレリ塔」の改修工事を取り上げました。「ピレリ塔」は2002年に小型飛行機の衝突事故が発生し、改修がおこなわれ、2005年に完成。修復するにあたり、外観の金属の建具を新しい材料に交換せず元の性能を回復するという、日本の古社寺でよくおこなわれる解体修理に近い方法が用いられました。サルヴォ先生はこの修復法について「普段誰も目を向けない技術システムにも、建築家の意図や歴史的な証が残っていることが認められて生じた方法である」と語り、見た目だけでなく、技術も価値として残していくことモダニズム建築の保存概念を提示しました。また、他にもさまざま事例を紹介され、モダニズム建築の保存における考え方を網羅されました。
クッコ先生は、「誰も気づかない建物の価値を際立たせることが、現代世界において活かされることにつながる」ことを、自身がこれまでに実施した研究内容をもとに解説。サレルノ航空機格納庫の例を挙げ、「一見すると単なる実用的な構造物に見えるが、これは著名な設計者ピエル・ルイジ・ネルヴィによる優れた構造システムを有している」と研究によって明らかになったことを紹介しました。「このサレルノ航空機格納庫に航空博物館としての新たな役割を与えることで、構造物自体を教材・歴史資料として活用しつつ、ネルヴィの設計思想やモダニズム建築の技術的価値を次世代に伝えることができる」と、保存と活用を両立させる保存提案についても示されました。
以上の講演内容を踏まえ、今後の建築保存の課題は、「保存工事の着工以降でも続き、時間の経過を意識する計画的なアプローチ」であるとまとめられました。
講演終了後の質疑応答では、名古屋城復元の問題、若者の教育、価値認知など、会場から多岐にわたる質問が寄せられました。
最後に溝口先生がまとめとして「イタリアと日本の違いは主に『オーセンティシティ』の解釈にあるが、モダニズム建築保存の課題には多くの共通点がある」とコメント。両国が持つ歴史や伝統に基づくアイデンティティは異なるものの、抱える課題には共通点が多く、日本でも参考にできる点が大いにあることが指摘されました。
本講義の開催は、日本の戦後建築作品の未来を専門家だけでなく、学生や一般の方も共にに考えられる貴重な機会となりました。本学の建築学部では、今後も学術性の高い学びの機会を提供していきます。












