追究
2026年02月24日
創造表現学部「現代小説b」特別企画 グレゴリー・ケズナジャットさんを迎えて

2026年1月15日(木)長久手キャンパス ミニシアター
作家・グレゴリー・ケズナジャットさんをお迎えし、
「現代小説b」の特別授業を実施。
創作表現について学びを深めました。
創造表現学部の柳井貴士先生による授業「現代小説b」にて、作家のグレゴリー・ケズナジャットさんをお迎えし、創作表現について学ぶ特別授業を開催しました。当日はケズナジャットさんと柳井先生による対談形式で授業が進められ、創作に向き合う姿勢や表現の可能性について、多角的な視点から語られました。


ケズナジャットさんは、アメリカ・サウスカロライナ州出身。来日後は、同志社大学大学院で日本文学を研究する傍ら、日本語で小説を執筆し、「鴨川ランナー」で京都文学賞を受賞しました。2023年に「開墾地」、2025年に「トラジェクトリー」で芥川賞候補となりました。幼い頃に実父を亡くし、母の再婚相手であるイラン出身の継父の元で育ったという、生い立ちをもつ作家です。


対談の冒頭では、1990年代のアメリカと、同時多発テロが起こった2001年以降のアメリカ社会の変化について意見が交わされました。ケズナジャットさんは、「ポスト冷戦期には、アメリカ=世界という観念がありました。それが9.11以降に変化し、ナショナリズムやレイシズムの雰囲気が色濃くなった」と語ります。白人でありながらイラン系の家庭で育ったケズナジャットさんは、そうした社会の変化に対して強い警戒心を抱くようになったといいます。
次の話題は、日本語との接点についてです。学生時代に第二外国語として日本語に触れ、一人称の使い分けや丁寧語とタメ語の違い、身体をめぐる間接的な表現など、英語の概念にはない日本語表現に驚いたと、ケズナジャットさんは振り返ります。さらに、京都での暮らしを通して異文化を体験するなかで、これまでとは異なる景色が見えるようになったといいます。異文化であるアメリカに移り住んだ継父のルーツにも興味が沸き、その体験を「開墾地」という作品で表現することになりました。


授業の後半は、制作の話題へと移りました。ケズナジャットさんは、執筆する際、自身の実体験を何よりも大切にしていると語ります。それは、日本人や日本文学の中に存在するアメリカ人のステレオタイプに抗い、実際に見聞きしたことを読者と共有したいという思いからです。「三島由紀夫の小説『金閣寺』に登場する米兵は、アメリカの暴力性の象徴として描かれています。それ自体が悪いわけではありませんが、そういった作品ばかりではつまらない。日本に住む外国人のリアリティを描き、これまでにない作品を創りたいのです」と、自身の創作姿勢を明かしました。
沖縄文学を専門とする柳井先生は、「沖縄にいると、米軍という大きな括りの中でアメリカ人に怒りをぶつける人がいます。沖縄が背負ってきた歴史を考えれば理解できますが、目の前にいるのは“アメリカ人”のAさんです。歴史と個人を切り離し、大きな主語の中で語られる正義が本当に自分自身の正義なのかを問い直す視点は、とても大切だと思います」と学生たちに伝えました。
芥川賞候補となった「トラジェクトリー」は、名古屋が舞台。ケズナジャットさんが愛知に暮らしていた実体験から生まれた作品です。まだ何者でもなく、どこかに到達しなければならないというプレッシャーの中で生きる主人公の立場や心情を表現するのに、「通過点」というイメージを持つ名古屋はぴったりでした。「名古屋の友人からは、通過点ではないと怒られましたが、ネガティブな意味ではなく、“中間点賛美”の小説です」と、作品に込めた思いを語りました。さらに柳井先生が、日本とアメリカのあいだで創作を行う感覚について問いかけると、ケズナジャットさんは、「私たちは常に、何かに属して“ワン・オブ・ゼム”になり、個性を消されそうになります。国家レベルでは自国ファーストが叫ばれ、中心点に引き込まれそうになる。その力に対して、創作活動を通して抵抗していきたい」と、語りました。




対談後には質疑応答がおこなわれました。「トラジェクトリーの作中にたびたび登場する『壁』には、どのような意味があるのでしょうか」という質問に対し、ケズナジャットさんは、「主人公は日本に馴染みたいと思う一方で、自分の領域に踏み込まれているような感覚も抱いています。その違和感をほのめかす存在が『壁』です」と説明しました。
また、「『鴨川ランナー』はなぜ二人称で描かれているのか」という質問には、「一人称では主人公にあまりに近く、三人称では遠く感じました。二人称にしたことで『日本人には書けない文学』という書評をいただきましたが、越境文学としてではなく、個の作品として興味をもって読んでほしい」と、答えました。

個としての創作表現を模索することの大切さなどが語られた対談は、学生たちにとって創作のヒントにあふれる時間となりました。今回の特別授業を受け、図書館にはケズナジャットさんの作品を集めたコーナーも設置され、これまでに発表された4作品『鴨川ランナー』『開墾地』『トラジェクトリー』『言葉のトランジット』を手に取ることができます。












