追究

2026年08月31日

人間情報学部 中間課題(おべんとう絵本)発表会

2026年6月18日(木) 長久手キャンパス812教室

黒い丸だけで物語を紡ぐ。人間情報学部で「おべんとう絵本」の中間課題発表会を開催

 ⼈間情報学部人間情報学科感性工学専攻の鈴⽊清重先⽣が担当する科目「デザインと芸術の研究史」の授業内にて、中間課題である「おべんとう絵本」の発表会および講評会が開催されました。

 学生たちが挑んだのは、紙と鉛筆だけで映画編集を体験できる「おべんとう絵本」(長谷川, 1988; 1995)の制作課題でした。「おべんとう絵本」は、絵本作家・ミュージシャンの長谷川集平さん(元 京都造形芸術大学 客員教授)が考案された『絵本づくりトレーニング』(長谷川, 1988)のうち、最初のトレーニングとして知られています。鈴木先生は、知覚心理学の論文(池田・梅津, 2002)を通じてこのトレーニングに接し、ご自身の映画編集に関する研究(鈴木・長田, 2002)と関連づけながら心理学とデザイン、アートの授業に取り入れてきたそうです。

 「おべんとう絵本」(長谷川, 1988, 1995)では、17の工程で15枚の白い画用紙に黒丸や文字を描きます。今回の課題では、はじめに絵本の見開き画面となる画用紙7枚の中央に、それぞれ決められたサイズの黒丸を1つずつ描きました。中央に黒丸を描いた7ページと各々隣接する7枚のページには様々な大きさ、位置、数の黒丸を自由に描きました。中央の黒丸を描いたページと自由に描いた様々な黒丸のページ2枚を1組にまとめ、合計7組のページをシャッフルしました。詳しくは文献をお読みいただき、よろしければぜひ制作してみてください。

 第8回目の講義時間内では、各自の制作した7組のページのうち1組をランダムに選び受講生間で交換しました。クラスメイトとのカード交換後、何も描いていない白い画面も1枚加え、さらに一部の反転やシャッフルを行った上で本の形に製本しました。黒丸だけが様々に描かれた本を何度もめくりながら、受講生自身が感じた黒丸の「動き」や「意味」を味わい、自由な発想によりお話として完成させる課題でした。学生自身が感じ取った「キャラクター」や「ストーリー」を明確に表す表紙、タイトル、ナレーション(お話)、セリフなどを表す文字を手書きして仕上げました。

 この中間課題は、日頃、CG や VR, AI 等の先端技術を駆使する生活や実習に慣れ親しんでいる学生に対して、アナログ技術に徹した制作を求める課題でした。学生たちは、ページのシャッフルにより偶発的に生じた「流れ」を基に、黒丸だけを描いた本から生まれたとは思えない様々なストーリーを紡いでいきました。⾊も使えず、描ける形も「丸」のみ。様々な表現の制約のなか、さらに「他⼈の描いたページ」と「⽩紙」という異なる素材が混ざり合う複層的な制約の下、学⽣たちの瑞々しい感性が発揮されていました。

 発表会は、学⽣たちが主役となる実践的なプロセスで進⾏しました。教室内を巡回し、机の上に並べられたお互いの作品をじっくりと閲覧。それぞれの表現⼿法を観察しながら、評価⽤紙に相互投票を⾏います。その後、学⽣たち⾃⾝で評価⽤紙を集計し、得票数の多かった上位3名の作品が披露されました。

 選出された3名の学⽣による発表では、プロジェクターにより教室内の大画面に作品を投影し、それぞれの個性が光る物語の構成が注目されました。まず学⽣が絵本を朗読し、つぎに絵本を朗読の速さでめくり、参加者全員がスクリーン上の黒丸の展開を観察しました。その後、鈴⽊先⽣やクラスメイトに向けて以下の3つのポイントについて解説しました。

1. お話(ストーリー)の起点となったページはどこか
2. 他者と交換したページが、お話にどう影響したか
3. ⽩紙ページをどこに挿⼊し、それがどうストーリーを動かしたか

 学⽣たちの観察は、実に感受性豊かでした。ある学⽣は、⿊丸を記号ではなく「個」と「集団」の⽐喩として捉え、⾃分⾃⾝の過去の経験と重ね合わせた深い⼈間ドラマを発表しました。また別の学⽣は、⿊丸を夜空に打ち上がる「花⽕」に⾒⽴てました。⿊丸の⼤きさの違いを花⽕の「⾳の⼤きさ」として表現し、追加された⽩紙ページは「花⽕が散った後の静寂(無⾳)」を伝える技法として⾒事に応用してみせました。さらに、他者と交換したページに対しては、「⾃分とは異なる『筆圧の違い』を、物語の展開のアクセントとしてうまく活かした」など、偶然の要素を作品の展開に⽋かせない表現へと昇華させる⼯夫が随所に⾒られました。デザインと創造の根源に迫る作品体験がありました。

 最後は鈴⽊先⽣から、それぞれの課題作品における「観察」と「記述」に関する解説が⾏われ、作品と研究方法に関する総括があり、講評会は締めくくられました。その後の講義では、知覚と表現の原理について⼼理学の視点から分析と考察を深め、期末レポートの執筆に取り組みました。

文献:
長谷川 集平(1988).絵本づくりトレーニング 筑摩書房
長谷川 集平(1995).絵本づくりサブミッション 筑摩書房

池田 進・梅津 倫子(2002).「ぱらばらまんが」について一視的運動事態に見る知覚の諸相一 関西大学社会学部紀要, 33(2), 193-221.

鈴木 清重・長田 佳久(2002).配列された2種類の動画像のみえ方 立教大学心理学研究, 44, 47-62.