交流

2025年12月04日

日本心理学会・東海心理学会・心理学部共催「こころの加齢と発達-実験研究から考えるウェルビーイング-」

2025年10月4日 (土) 星ヶ丘キャンパス 5号棟55A教室

加齢による弱みと強みを見つめ直し、
高齢期のウェルビーイングについて考える講義がおこなわれました。

 2025年10月4日(土)、星ヶ丘キャンパスで、愛知淑徳大学心理学部、日本心理学会、東海心理学会による一般向け講演会が開催されました。
 本講演会では、本学心理学部の坂田陽子先生、立命館大学の土田宣明先生、神戸大学の増本康平先生が登壇し、「こころの加齢と発達-実験研究から考えるウェルビーイング-」をテーマに、人生100年時代の幸福について、最新の認知研究の成果を発表しました。進行は、本学心理学部教授で企画者の久保南海子先生と、大阪大学の権藤恭之先生が務めました。

 最初に登壇したのは坂田先生。発表テーマは「子どもとの会話で心も脳も活き活き!実験結果が明かすその理由」です。研究では、10歳の子ども、大学生、中年成人、高齢者といった異なる年齢層の人が高齢者に「思い出話を3つ聞かせてください」と質問します。その結果、多くの高齢者は、質問者が小学生の場合は約60%が自身の小学生時代の思い出を、大学生以上の場合は20歳前後の思い出を話す傾向があることが分かりました。
 坂田先生は、相手に合わせて柔軟に受け答えすることが脳の活性化につながり、高齢者にとって子どもと話すことが認知症予防にも効果的であると結論づけています。
 最後に、「楽しく会話することが心のウェルビーイングにつながります。たとえば名古屋の高齢者なら、日常的にモーニングに行く中で子どもをうまく組み込めば、認知症予防にもなるのではないか」と締めくくりました。

 2番目に登壇したのは土田先生。発表テーマは「実行機能からみた高齢期の"弱み"と"強み"」です。実行機能とは、目標を達成するために思考や行動を計画・調整・制御する脳の働きのことです。研究によると、高齢者では行動や反応を抑える機能が加齢により低下し、エラーが起きやすくなるという弱みがあります。一方で、創造性を測る課題では、この抑制機能の低下が逆に有効に働くという結果も得られました。
 さらに、高齢者の実行機能は単純に低下するのではなく、場面に応じて臨機応変に調整できる可能性があること、そして個人差が非常に大きいことを示唆されています。土田先生は、こうした加齢による発達の特徴について見識を述べました。

 最後に登壇したのは増本先生。発表テーマは「高齢期の記憶と幸福の関係:老いへの偏見に縛られていませんか?」です。増本先生は、高齢期のウェルビーイング実現に向けた研究を日頃から行っています。今回の発表では、「歳をとると多くの喪失を経験し、他の世代と比べて不幸だ」という世間の偏見をテーマに、実際はどうなのか、そしてウェルビーイングを低下させないために何が重要なのかを説かれました。
 様々な実験や研究結果から、幸福を感じる機能は高齢になっても維持されること、また蓄えた知識や技能は失われないことが示されています。さらに、良い人生だったと思えるかどうかは、高齢期をどう過ごすかが最も重要で、「後悔しない意思決定や行動の選択肢を確保することが大切」とまとめられました。

 最後に、指定討論者として権藤先生が登壇しました。権藤先生は、坂田先生・土田先生・増本先生の発表内容をさらに深掘りする問いを投げかけられ、議論を通じて研究の理解が一層深まりました。
 締めくくりとして、権藤先生は「高齢者が年を重ねることの強みを持てるようになれば、高齢期に対するポジティブなイメージが広がります。人生100年時代が、そういう世界になるといいですね。」と話され、本講座を締めくくられました。