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2013年08月10日

高校生のための心理学講座シリーズ 心理学と社会 ―こころの不思議を解き明かす―

高校生のための心理学講座シリーズ 心理学と社会--こころの不思議を解き明かす--

心理学のトビラを開く5講座を開講。
たくさんの高校生が意欲的に参加しました。

「心」のしくみを明らかにし、人や社会に役立てることを目的とした学問、心理学。目には見えない心をさまざまなデータから読み解いていくため、「心の科学」ともいわれています。そのおもしろさや奥深さを高校生や高校の先生方に伝える「高校生のための心理学講座シリーズ 心理学と社会 ―こころの不思議を解き明かす―」が、6月から9月末にかけて全国12大学でおこなわれました。日本心理学会主催の中部I地区会場校として本学も参加し、8月10日(土)、心理学部の教員5人が特別講座を開講。心理学に関心を寄せる高校生や保護者の方々、高校の先生方など約100人が受講しました。
ここでは、当日おこなわれた多彩な講座の内容を、ダイジェストでご紹介します。

1時限目「心理学とは」
担当講師:斎藤和志 教授

 「心理学」は、研究者によってアプローチの仕方が異なり、研究領域も多岐にわたります。そこで1時限目の講座では、どのように「心」を学ぶのか、研究を深めていく際にどんな力が必要なのか、心理学の全体像をわかりやすく解説しました。斎藤先生は「刺激を受けたとき、人間はどんな反応をするのか、その行動の法則性を科学的に考えていくのが心理学」と定義づけた上で、錯視などを例に挙げながら「同じ刺激を受けても、人によって異なる反応をすることがある」と説明。また、心理学の研究に関して「次々と新しい視点で考えていくこと」の重要性を語りました。心理学を通して養われる論理的思考力や想像力が、社会のあらゆる場面で役立つことも伝えられ、高校生たちは心理学を学ぶ意義を感じ取っていました。

2限目「認知心理学」
担当講師:吉崎一人 教授

 認知心理学の研究対象となる「認知」とは、人間の知的行動や意志、情動のこと。この講座では、「記憶」という人間の知的行動にスポットを当てて、認知心理学について解説しました。受講した高校生たちは、人の名前と職業を記憶する実験に参加。人の名前を思い出すことに比べ、職業を思い出すことの方が簡単だということを、実験を通して実感していました。吉崎先生は「心理学は、心や行動の法則性を科学的に探る学問。"客観的に測る力"が必要になります。"測る"とは、数量に置き換えること。まさに今の実験でおこなったことこそ、"測る"だったのですよ」と解説しました。目に見えない知的行動を数値化する体験をし、高校生たちは心理学への興味をますます高めていたようです。

3限目「社会心理学」
担当講師:小川一美 准教授

 人と人の関わりが生じている場を社会と捉え、「他者が心の働きに与える影響」を研究対象としている社会心理学。小川先生は、有名な社会心理学の実験を紹介しながら、社会心理学の特徴を解説しました。たとえば、人間の同調行動についての研究。ひとりの実験参加者を除き全員がサクラで、そのサクラたちは全員一致で明らかに間違った答えが正しいと回答した場合、その実験参加者は正しい答えを述べられるのかという研究です。単純かつ正解が明確な課題でも、まわりの人と同じように間違った回答をしてしまう人が多くいました。この「同調行動」は日常でよく起こりうること。小川先生は「生活の中に潜むさまざまな出来事の理由を解明できるのが、社会心理学。人に身近な学問なのです」と学びのおもしろさを伝えました。

4限目「臨床心理学」
担当講師:清瀧裕子 准教授

 個人や集団において、心理的な苦しみや悩みを持ち、行動面で問題を抱えている人々をどのように理解し、援助していくのか考えるのが、臨床心理学の大きなテーマです。この講座では、心の状態を理解するために用いられる、心理検査を体験。高校生たちが挑戦したのは、絵画を見て物語を連想していく「投影法」という心理検査を応用したものでした。絵画という曖昧な対象にどのような意味づけをするのか、その人の心の状態を観察し、探り出す方法です。清瀧先生は、「臨床心理学では、心の問題や障がいはなくせばいいという考えではなく、ひとつの危機と捉え、しっかりと向き合っていきます。危機も新たな"出発点"と捉えて成長を促すことが、臨床心理学では大切になります」と力強く語りました。

5限目「発達心理学」
担当講師:坂田陽子 教授

 人の成長や変化について研究するのが、発達心理学です。坂田先生は、赤ちゃんが人の顔の違いはもちろん猿の顔の違いも見分けること、LとRの発音が正確に聞き分けられることなど、「大人よりも優れた赤ちゃんの能力」を紹介。3歳の子どもの表情や行動を撮影したビデオも上映され、高校生たちも、映像を通して発達の様子を実感していました。「発達と言われると、成長、つまり"増えること"ばかりに目がいきますが、人間の発達は"減ること"が重要だと言われます。人の発達において"減ること"はどのような意味があるのでしょうか?」と疑問を投げかけた坂田先生。「人の能力の器の大きさはある程度年齢ごとに決まっていて、本当に必要な能力を深長していくためには、不必要な能力が"減ること"がとても大切なのです。心理学ってわかりづらい学問かもしれませんが、自分なりに考えて答えを見つけたり、自分の興味をとことん追究したり、とても楽しい学問です」と優しく微笑み、心理学を深く学ぶ魅力をイキイキと語りました。