成長

2013年03月20日

小説家として個性を磨いてくれる、編集者との対話。

vol.10

文学部 国文学科 OG

書きたいことと求められることを両立させるのがプロの技。
編集者と二人三脚で歩む、小説家としての道のり。

2005年、小説「はるがいったら」で集英社「第18回小説すばる新人賞」を受賞し、小説家としてのスタートを切りました。その後、雑誌連載などを手がけるうちに、「はるがいったら」を読んでくださった編集者の方から単行本の執筆依頼を受け、2作目に取りかかることになりました。この本、「学校のセンセイ」は2007年6月に発刊しました。
デビュー前と現在とで一番変化したことといえば、作品に向かう姿勢です。アマチュア時代の「書きたいものを、ただ書きたいから、書く」というスタンスではなく、本として出版されることを強く意識するようになり、プロとしての自覚が芽生えてきました。編集者の方は作品のアイディアをいくつか考えたうえで執筆依頼に来てくださいます。プロの編集者さんが「面白い」と考えたアイディアに、私自身の興味や問題意識をすり合わせ、テーマを練り上げることが作品づくりの第一歩。「学校のセンセイ」の執筆にあたっても、自分が書きたいことと編集者さんから求められることの両方を生かし、一つの作品に結実させていくプロセスに心を砕きました。

「学校のセンセイ」の主人公は、桐原という高校教師です。「面倒くさい」が口癖で、なんとなく教師になってしまったという彼と、少しクセのある同僚の先生たちや生徒たち、微妙な関係の女友達など、周囲を取り巻く人々との日常を描いています。クールな現代っ子教師、桐原を生み出すヒントも、編集者さんとのやり取りの中から得ました。教師や医師、代議士など、「聖職」というイメージを持たれがちな職業の人物について、仕事上の顔ではなく、人間的な素顔を描いたら面白いのではという着想を膨らませたのです。
編集者の方は、「飛鳥井千砂が書いたら面白いだろう」という視点で提案をしてくださいますし、批評家や読者の方々も作品についてさまざまな感想を寄せてくださいます。そうした声に真摯に耳を傾け、自分の個性や長所を伸ばすことが、プロ作家として走り始めた現在の課題だと感じています。

臆せず、周囲に惑わされず、自分の興味を貫こう。
どんなことも、必ず将来に生きる力となる。

 初めから作家を目指していたわけではなかったため、今にいたるまでには人並みに就職活動も体験し、企業で働いてもきました。結婚直後には専業主婦という立場を経験したこともあります。そういった経験のすべてが、小説を書くうえでこやしとなってくれています。人生に、本当に無駄はないものですね。
卒業後何年も経った今だからこそ、学生時代に得たものの大きさがよく分かります。好きな学問を迷わず選び、没頭できた4年間は何よりの宝物でした。真剣に学び続けた経験そのものが私を鍛えてくれましたし、文章表現など、現在の職業に直結することを学ぶこともできました。何よりも、文学を学ぶことで視野が広がり、模範解答よりも自由な発想を大切にしてくれる学風のおかげで、自分の頭で考える習慣が身につきました。

 進路で迷っている方は、どうかおそれず、自分の興味のおもむくままに一歩踏み出してみてください。学びたいこと、面白いと感じること、取得したい資格、学生時代にチャレンジしてみたい冒険、どんなことでもいいのです。一見、回り道に思えたり、不要なことに見えたりしても、学生時代に打ち込んだことは、たとえ勉強以外のことでも、必ず何らかの形で将来に生きてくるものですから。

2007年11月 取材


飛鳥井千砂さんの作品
第18回小説すばる新人賞受賞(主催・集英社)贈賞式の模様はこちら