交流
2025年01月23日
ダイバーシティ共生センター学外体験学習会「多文化共生にふれてみよう!」

2024年11月30日(土) 豊田市 保見団地
有志で集まった学生13人が豊田市の保見団地を訪問。
外国籍の大人と子どもたちを知り、
"違いを共に生きる"を実感しました。
本学のダイバーシティ共生センターは、国籍、言葉、文化、性別、年齢、障がいの有無などのダイバーシティに関する学修・研究を支援し、多様化する社会に調和して共生できる学生を育てることを目的に、2024年に長久手キャンパス11号棟1階に開設しました。学外体験学習会としては初めてとなる催し「多文化共生にふれてみよう!」が2024年11月30日(土)に開催されました。学部学科、学年問わず募集して集まった13人の学生が参加し、外国籍(主にブラジル人)の住民が多く、外国人児童生徒教育に力を入れている愛知県豊田市の保見団地を訪問しました。
まず訪れたのは、外国にルーツを持つ子どもたちに日本語教育を通して居場所づくりの活動をおこなう「NPO法人トルシーダ」の活動拠点であるトルカーザという施設。そこで、全校生徒の約7割が外国籍児童である豊田市立西保見小学校、ならびに豊田市立保見中学校で学校長を務めたご経験があり、現在は豊田市外国人児童生徒等サポートセンターの代表をしている平吹洋子先生から、保見団地内にある西保見小学校・保見中学校で実践されてきた外国人児童生徒教育についてのお話を伺いました。
「子どもたちは、日本で生活をする中で日常会話は2〜3年で話せるようになっても、学習に関する言語の習得には7年以上かかる」と平吹先生は話され、校⻑先生をされていたときには、誰一人取り残さない教育が実現できるよう、体制づくりに力を入れてきたそうです。それは単純に、外国人向けの授業ということではありません。外国籍でも優秀な子どもはいるし、母語・日本語・その両方の言語習得においても個人差があります。また、日本人の子どもでも、勉強でつまずく子はいます。平吹先生が実践してきたのは、国籍問わず、一人ひとりの能力に目を向け、授業の中で置いてきぼりになる子がいないよう配慮した「ユニバーサルデザインの授業」。外国籍の子どもであれば、母語も武器にすることで、グローバルに活躍できる未来が開けると平吹先生は言います。実際に校⻑をしていた際に、保見中学校を卒業した日本人の親子から「この中学校で学べたからグローバルな感覚を身につけることができて良かった」と言われたことが心に残っているそうです。学生たちは、平吹先生が現場で真摯に向き合ってきたからこその、思いあふれる教育への考えに、熱心に耳を傾けました。また、日本語教育の現場に興味があると発言した学生に対して、「外国人児童生徒等サポートセンターに見学に来てもいいですよ!」と、門戸を開いてくださいました。
平吹先生のお話を伺った後は、トルシーダ代表の伊東浄江先生、スタッフでブラジルルーツのジェシカさんに保見団地内を案内していただき全員で歩きながら見学しました。団地に出発する前に学生には「ユニバーサル・多文化・日本・ブラジル・地域との壁・グローバル」、これらキーワードをふまえて見学して、あとからみんなで感想を共有しよう!というお題が出されました。
保見団地は、扇状に何棟もの建物が並びます。団地内に足を踏み入れると、行き交うほとんどが外国人。日本ではないかのような雰囲気に、学生たちは驚きます。団地内にはスーパーマーケットがあり、並んでいる食材も、日本では見かけないようなものがたくさんありました。店長さんにおすすめ商品を聞いてみると「ブラジル人は朝ごはんにパンやケーキを食べることが多い」と教えてくださり、食文化の違いを知ることもできました。
団地内では「ゴミ問題」が昔から大きな課題であると伊東先生は教えてくれました。かつて、ゴミステーションに分別されていないゴミがたくさん捨てられ住民間のトラブルが多くあったそうです。そこで、保見中学校の生徒に協力してもらい、ゴミの分別をわかりやすく示したポスターを制作し、それをゴミステーションに掲示したそうです。また、かつて団地内の共有スペース(ピロティ)がスプレー缶による落書きだらけで、そこを通って学校へ行く子どもたちから「怖い」という声が聞かれたそうです。伊東先生は、スプレー缶の落書きは日本社会と外国人住民の間の「心の壁」の表れだったとお話されていました。そこで、保見団地の子どもたちの未来をどうにかしたいと強く思い、自治区や行政機関等、そして一人でも多くの地域住民に協力してもらって「壁を使って壁をなくす」活動を企画し、クラウドファンディング等で資金を集めて「HOMIアートプロジェクト」を実施したそうです。壁画は、アーティストと子どもたちを含む住⺠が「多文化共生」というテーマでワークショップを何度もおこない、最後に一緒に完成させました。以前は住⺠間のトラブルが絶えなかった団地でしたが、多文化共生の理解を深めるいくつもの取り組みを通して少しずつ変わりつつあるそうです。現在、ピロティの壁には国籍を超えた人々が笑顔で踊る姿が描かれ、カラフルで明るい印象を放っていました。学生たちも熱心にスマホで写真や動画を撮影していました。
保見団地を見学した後は再びトルカーザに戻り、伊東先生からトルシーダの取り組みについてお話を伺いました。立ち上げ当時は、学校に通っていない外国籍の子どもたちが多く、そのような子どもたちが、居場所がなく辛い思いをしている現状を目にし、「食べること、寝る場所があること、勉強したかったらいつでもできる環境」のために、プレスクールを開いたり、高校進学のサポートに注力してきたそうです。また、現在では外国籍の高齢者も増えていることから、年金がなく、介護保険にも入っていない住民をサポートするべく、シルバー人材センターと連携して、団地内の草刈りボランティアの仕事をとりまとめています。ブラジルの人は、お祝いごとやイベント、何かの打ち上げにはブラジリアンバーベキュー「シュハスコ(CHURRASCO)」を楽しむのが常。これは日本人の考えるバーベキューとは意味が異なり、ブラジルの人たちの大切な食文化だそうです。伊東先生のお話のあとは、それを実体験するべく、保見団地在住のブラジル人のみなさん(日本在住歴20〜30年)と共にシュハスコタイムを楽しみました。
お肉や野菜、デザートを味わいながら、学生たちはやさしい日本語を意識して話をしたり、ポルトガル語やサンバのリズムを教えてもらったりと、ブラジル人のみなさんと交流を深めました。締めくくりの感想発表では「多文化にふれることで、日本と同じ部分もあり、違う部分もあるんだと実感しました」「話している中で、育ってきた環境は違っても、同じ一人の人間だと感じた」「保見団地に来るまでは、日本人が少ない団地があると聞いても想像ができなかったが、実際に訪れて、こういう場所があるんだと実感を持って知ることができた」「外国籍の児童生徒における教育の話はとても勉強になった」「将来は教育に携わる仕事がしたいと思っているので、今日教えてもらった考えを今後活かしていきたい」などの声があがりました。
実際に外国籍住民の多い生活の現場を訪れて支援者の話を聴き、団地内の住環境をリアルに体感し、ブラジルの大切な食文化「シュハスコ」を実体験しながら、"ことばの壁"を乗り越えて交流を深め、"心の壁"とは何かを見つめる、そんな「違いを共に生きる」の本質を学ぶ充実した1日になりました。