追究

2019年04月01日

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

4年間の集大成を飾る「卒業プロジェクト」。
学生一人ひとりが自らの興味を追究し、形にしました。

 本学のメディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修(現:創造表現学部 建築・インテリアデザイン専攻)は建築の基礎から応用までの学びを通して、国や地域の歴史・文化はもちろん、環境、経済、防災といったさまざまな社会的背景まで学ぶことができます。建築設計にとどまらず、空間設計や都市計画、色彩・照明計画、インテリアデザインなども学修対象としていることも大きな特徴です。このような多様な学びが用意された環境で学際的に学び、育んだ創造力や実行力、計画力などを発揮して取り組むのが、4年次の「卒業プロジェクト」です。学生たちは自らの興味関心を追究し、建築物を設計する「卒業設計」、家具や照明、ファブリックなど実作を制作する「卒業制作」、建築やまちづくりなどをテーマに研究する「卒業論文」の中から1つ選んで完成させます。卒業プロジェクトのテーマは、多彩な都市環境デザイン専修の学びを象徴するかのように多岐に富んでおり、今年度のテーマは「これからの小学校」「高齢者の活動拠点」「イスラム建築」「空き家バンク」「働き方と片付け方の関係性」など個性豊かなラインナップとなりました。今回はその卒業プロジェクトを横断的に紹介し、学生たちの成長の様子をお伝えします。

卒業プロジェクトの流れ

1月23日 最終締切

 2018年4月からスタートした卒業プロジェクトは、「中間発表会」を経て、2019年1月23日に作品・論文の最終締切日を迎えました。提出日間近のこの日は、学生たちが熱心に最終調整をおこなっていました。模型の細部を修復したり、研究内容をまとめたパネルをパソコン上で見直したり、約10か月かけて実施してきた卒業プロジェクトの完成に向けて、最後の追い込み作業を進めていました。

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

1月24日~29日 卒業プロジェクト展

 完成した作品と論文を学内で展示する「卒業プロジェクト展」を開催しました。来年卒業プロジェクトに挑む3年生を中心に、多くの後輩たちや、一般来場者が来場。来場者と意見交換をしながら、じっくりと出展の作品・論文を鑑賞していきました。卒業プロジェクトをやりきった4年生も仲間の作品を鑑賞し、互いの努力を称え合いました。

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

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1月28日 論文最終審査会

 この日、おこなわれたのは卒業論文の口頭発表を行う「最終審査会」。論文執筆者全21人が一人5分間のプレゼンテーションをおこない、教授陣がその内容を審査しました。「韓国住宅と日本住宅の違い」「緑区有松地区の変遷」「車のフロントマスクが人に与える影響」など多彩な内容が発表されるなか、最優秀賞のUAD賞に選ばれたのは「小学校の避難所における行政と教員の連携について」を研究した八田 奈央さん。優秀賞には川口 友貴さん、山下 千尋さんが輝きました。

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

1月29日 設計制作最終審査会

 卒業設計と卒業制作の中から、口頭発表を行う「最終審査会」がおこなわれました。一次審査はパネルの前で各自が審査員の先生方にプレゼンテーションをおこなう「ポスターセッション」。学生たちは「設計の意図」や「工夫した点」を伝え、審査員の様々な質疑に答える形でアピールしていきました。二次審査は一次審査を通過した6組(7名)によるプレゼンテーション審査。スクリーンに卒業プロジェクトの内容をまとめたスライドを映し出し、丁寧に作品について説明していきました。最優秀賞のUAD賞に選ばれたのは「商店街に小学校のシステムを融合させた新しい小学校のあり方」を提案した渡邉 莉奈さん。優秀賞には山本 太一さん、阿部 沙也加さんが輝きました。

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

2月19日~24日 優秀作品展

 「最終審査会」において優秀な評価を得た作品を展示する「優秀作品展」を「名古屋市民ギャラリー栄」にて開催しました。会場には地域の方々や保護者の方々など、多くの来場者が詰めかけ、4年間の集大成となる学生たちの力作を鑑賞しました。この展覧会は4年生の作品だけでなく2年生、3年生の優秀作品も同時に展示。2月20日には、外部から審査員として建築家の先生をお招きし、学年を越えて「優秀作品賞」をかけた講評会に挑みました。よりハイレベルな学び合いの場が実現し、下級生は来年度以降の励みを、最上級生は社会人として一歩を踏み出す自信を得ることができました。

>建築・インテリアデザイン専攻2019 優秀作品展はこちら

受賞学生インタビュー

論文

UAD賞
「小学校の避難所における行政と教員の連携について~愛知県尾張臨海部~」
八田 奈央さん

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

 もともと「防災」について興味があり、卒業プロジェクトではぜひテーマとして取り上げて、研究を進めてみたいと思っていました。しかし「防災」というジャンルは幅広く、具体的にどんなことを調べようかなかなか決めることができませんでした。そんなとき、図書館で東日本大震災時の教職員の業務の過酷さを記した本に出会い、「小学校における避難所のあり方や運営体制」について研究しようと決意しました。先行研究を読んだり、避難所運営について愛知県尾張臨海部の市町村にアンケート調査をおこなったり、さまざまな方法で情報を集めました。わかったことは、自治体によって避難所のあり方や避難所業務についての考え方が大きく異なっているということ。さらに、避難所生活は避難者主導であるということです。自治体、避難者、避難所に勤務する小学校教員の認識にずれがあれば、避難所運営をスムーズにおこなうことはできません。そのためまずは「避難所生活は避難者主導」という原則を徹底的に普及させるべきだと思います。卒業研究を通じて避難所運営の実態を知ったことで、避難所に対する新たな課題を見つけることができ、その発見は大きな達成感につながっています。

論文紹介
 愛知県尾張臨海部の市町村においてどのような避難所運営をおこなうのか、アンケート調査をおこない、避難所の責任者、開設者、運営者など7~8つの項目について一覧にまとめた。各自治体を比較検討することで、避難所運営における課題を明らかにしようとした。

優秀賞
「色彩の心理効果に関する研究 一人暮らし学生の部屋を対象として」
川口 友貴さん

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

 カラーコーディネーター検定への受験や授業で色彩について学ぶうちに色の持つ力に興味を惹かれ、卒業プロジェクトでも取り上げてみようと考えました。また、私自身就職を機に一人暮らしをすることから、「一人暮らしの部屋」を研究対象に据え、色彩の心理効果を調べてみようと思いました。私が用いた手法は「実験」です。壁紙や床材、家具の色が異なる模型を数種類用意し、それぞれ実験参加者がどのような印象を受けるのか、調査していきました。調査結果は心理学の研究で使う「統計処理ソフトSPSS」を用いて分析しました。初めて使うソフトだったので、悪戦苦闘! 本学の心理学部の友達に教えてもらいながら、一歩ずつ研究を進めていきました。その結果、快適な部屋を「居心地がよく開放感のある部屋」と定義すると「壁と床の色が明るく、家具は暖色系の部屋が快適である」という一定の結果を得ることができました。しかし、今回の研究では模型を用いたため、照明や自然光などの影響は検討することができませんでした。まだまだこの研究には可能性があり、おもしろい発見があるかもしれないと感じています。卒業後は不動産業界で働くので、今回の研究で得た知見も大いに活用していきたいと思います。

論文紹介
 床の色2種、壁の色2種、家具の色2種用意し、それぞれの組み合わせを変えた8パターンの模型を用意。実験参加者が模型を見たときに得られる感情を調査し、「快適な部屋はどれか」を探った。研究の結果、「壁と床の色が明るく、家具は暖色系の部屋」が快適と感じると結論づけた。

<優秀賞
「住まいとその周辺環境を五感で感じることが“住まいへの愛着”につながる可能性」
山下 千尋さん

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

 卒業研究を始めるとき、最初におこなったのは100円ショップに行って「卒業論文用ノート」を購入することです。形から入るタイプなので「まずは行動!」と思い買い物にでかけましたが、実際に卒業論文用ノートを手にすると身が引き締まる思いがしました。そしてさまざまな文献を読み、アンケート調査をおこなって、「同じ住まいに住み続ける理由」を探りました。集まった回答は142名分! 入力したデータが全部消えてしまうというトラブルに見舞われながらも、最後までやり抜きました。最終的には「五感で住まいや周りの自然環境を感じられること」が、住まいへの愛着を形成し、長く住み続ける要因になっているのではと結論づけました。この結論に至るまで、ゼミの担当教諭である瀬口先生には大変お世話になりました。そして「即実行!」ではなく、一呼吸おいてもう一度考えを巡らせて、物事を選択する習慣も身につきました。この習慣は先生と意見交換をおこない、さまざまな意見の論文を読むことで、多角的な視点から物事を考えるおもしろさに気づいたことで身につけることができたのだと思います。今後はコンビニ業界で、自ら選定した土地にコンビニをつくり、地図に掲載するという夢を叶えたいと思います。

論文紹介
 人が同じ住まいに長く住み続ける理由として「五感」と「愛着」をキーワードに据えて検証。アンケート調査を通じて集まった多くの声を分析・考察した結果、「五感で住まいや周りの自然環境が感じられることが愛着の醸成につながり、長く住み続ける要因になりうる」という結論を導き出した。

設計・制作

UAD賞
「アーケードの下、160mの学び舎」
渡邉 莉奈さん

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

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 私は3年次から間宮ゼミに所属し、商店街の活性化に奔走する人々と多く出会ってきました。また私自身、自分の地元への愛着が薄く、「もったいないな」という思いを抱いていました。2つの思いが合致し、卒業設計では「商店街を活かした小学校の新しいあり方を提案したい」と考えるようになりました。設計前に対象敷地を探していく中、瀬戸市で「2つの中学校と3つの小学校が統廃合される」という話を聞き、「人口減少が進むのに統廃合を続けていても、また数年後に統廃合が繰り返される。このままではいけない」という問題意識に火がつき、瀬戸市のせと銀座通り商店街を対象敷地にすることを決めました。提案としては、小学校の教室を1つずつ分割し、商店街の空き家に再配置しようというもの。アーケードを小学校の廊下に見立てて、プランを考えました。1つ1つの教室も、教室内を風が通り抜け、光が回るように谷型に設計するなど、細部にまでこだわりました。さらに意識したのは、商売をおこなっている既存の店舗に迷惑がかからない工夫をしたり、実際に小学校として機能するかを厳しく検証したり、さまざまな視点から実現可能性を追い求めること。統廃合に変わる力強い提案にしたかったので、抜け目ないようにしたかったのです。そのこだわりが形となり、評価をいただけたことは、確かな自信になりました。

作品紹介
 せと銀座通り商店街を対象敷地に、商店街と小学校が一体化したプランを提案。「普通学級」「特別支援学級」「家庭科室」「理科室」など、小学校の教室を分割し、空き店舗の敷地に再構築するというもの。少子高齢化、人口減少、小学校の統廃合など、多角的に社会問題解決をめざした提案となった。

優秀賞
「京小商」
山本 太一

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

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 タイトルは「きょう こあきない」と読みます。小商いとは京都に根付く働き方の名称で、「わずかな資金でおこなう商売」のこと。今、「AIの進歩によって職業がなくなる」という議論や「副業ブーム」などが起こっていて、個人的にも「働く」ことに対する興味が高まっていました。もともと京都という土地が好きだったこともあり、「建築設計を通じて、新しい働き方を提案してみよう」と卒業設計を進めていきました。まずは京都の街を歩き、ギャラリーを訪問したり、川の流れと空間についての講演会を聞きに行ったり徹底したリサーチから始めました。足を使って情報を集めていくと、川と空間の魅力を知り、さらに京都は風水に基づいて神社などの建造物が設計されていることを知り、どんどんプランが形作られてきました。すべての情報は偶然の出会いから見つけたものですが、その偶然が重なり、風水的にも人の流れとしても集いやすい「鴨川の土手」に「起業家支援施設」を設計することになりました。徹底したリサーチとともに大切にしたのが、建築物として完成度の高いものを提案しようという思いです。最後まで自分のこだわりを貫いた経験こそ、卒業プロジェクトを通じて得た、自分の財産です。

作品紹介
 鴨川の土手に「起業家支援施設」を設計。利用者は施設に収納されている屋台を用いて、土手にお店を出店する。「屋台」というミニマムな形態で起業できることで、トライアンドエラーを重ねてより良い商売を育てることができるのではと考えた。経験は施設に持ち帰り、利用者同士、共有していく。

優秀賞
「超巣 超高齢先端都市の暮らし」
阿部 沙也加さん

メディアプロデュース学部 都市環境デザイン専修 2019卒業プロジェクト展

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 「年を重ねた人は、ある一定の年齢を迎えると急に高齢者という名前がついて、弱者というイメージにとらわれてしまう。それは少し悲しいこと」。私は漠然と、そんなことを感じることがありました。そして高齢者には、今までの経験や技術が豊かに備わっているので、その力を発揮する場があっても良いのではないかとも感じていました。そんな時、たまたま春日井市にある商業施設が閉店することを知りました。そこで、新たな視点から「人が集う空間」を提案できないかと考えたのが、今回の卒業プロジェクトです。最終的には六角形の建物を設計。中心部を居住空間、外側を店舗空間にすることで、「一歩踏み出せば商い」を可能にしました。また、六角形が生み出す6つの空間を利用することで、商品が出来上がるまでの過程を順々に見せていくことができるよう工夫しました。最後は無事、アイデアを設計に落とし込むことができましたが、最初は何から手を付けていいか分からず、世の中にある職業を調べるところから始めたことは、いい思い出です。同時に、自分が納得してから制作を進める「ていねいさ」や「論理的に考える力」は自分の強みにもなると感じました。社会に出ても、真摯に仕事や課題に向き合っていきたいと思います。

作品紹介
 見た目はまるで蜂の巣のよう。六角形の建物が連なり、人々が集う新しい形の「住居兼商業施設」を提案した。入居者は高齢者を対象にしており、高齢者の生きがいづくりにもなればという思いが根底にある。ECサイトの普及が著しいが、リアル店舗の魅力も存分に提案に盛り込んだ。