追究
2021年10月28日
中山英之展 「,and then」 愛知巡回展・講演会

巡回展:2021年9月4日(土)~9月19日(日) 長久手キャンパス8号棟5階 プレゼンテーションルーム
講演会:2021年9月11日(土) 長久手キャンパス511教室
建築・インテリアデザイン専攻の3年生が、建築家の展覧会を再構成。
空間設計から施工、プロモーション活動まで、すべてを手がけました。
2021年9月4日(土)~9月19日(日)、長久手キャンパスの8号棟5階プレゼンテーションルームで中山英之展 「,and then」 愛知巡回展が開催されました。この展覧会はTOTO株式会社が運営する「TOTOギャラリー・間」(東京・乃木坂)で開催された展覧会を、創造表現学部 建築・インテリアデザイン専攻の3年生が愛知巡回展として再構成したものです。「デザインワークショップ」という授業内で、学生たちが建築家ご本人の指導を受けながら、展覧会場の空間設計から施工、広報活動まで、すべてを手づくりする本専攻の一大プロジェクトです。今年度は56人がこの授業を履修し、中山英之氏の建築作品を題材にした映画6本を上映する空間を創り出しました。
プロジェクトの始まりは、2021年4月。中山氏から「石のシアター」というお題を与えられました。上映する短編映画の一つである「かみのいし、きのいし(砂山太一氏共同制作)」を題材にするということ以外に、条件も制限もないという自由度があるからこそ、自分たちで何を拠り所にするのか、ゼロから考えていく必要がありました。
もう一つの難しさは、「きのいし」のつくり方が確立していないという点です。中山氏と砂山氏によって、高さ1mほどの石は過去に制作されたことはありましたが、これは「ベニヤ板に直接石の模様を印刷する」という特殊技術を用いて制作した、プロならではの方法で実現したものであり、学生たちは当然その技術は使えず、予算も潤沢にないなか、自分たちの力で完成できる「つくり方の開発」から取り組む必要がありました。石の構造を研究し、石のつくり方を専属で開発する「石班」なるものが編成される中、昨年よりオンライン会場の質を高めたいという思いから「オンライン会場班」や、自分たちの制作工程を題材とした映像作品をつくる「映画班」が編成されるなど、今年ならではのアプローチで展覧会の準備が進みました。
途方もない数の実験と失敗を繰り返し、ようやく完成した展覧会会場は、モチーフは映画館ですがほとんど壁がなく、巨大な石を配置して空間を生み出したクールな会場で、動線は来場者が自由に選べるよう、余白を残してプランニングされました。そして9月11日(土)には、中山英之氏を展覧会にお招きするお披露目会が実施されました。当日は会場に着いた中山氏を、デザインワークショップの「リーダー」と、来場者を大学の正門から会場まで誘導する掲示をつくった「サイン班」のメンバーが出迎え、キャンパス内のサインを紹介しながら会場までご案内し、会場に到着した後は、リーダーを中心に展覧会のこだわりを中山氏に伝えながら、展覧会を鑑賞しました。
中山氏は石の制作方法を確立するまでの過程をまとめたパネルの前では、「恐ろしいほどの数の試作品だね、すごい!」と感動した様子で、「本物の映画館みたい!」と驚きの表情を見せたシアターでは、「こんなに大きく強度のある石のつくり方を自分たちで考え、制作できたことが素晴らしい」と感想を述べてくださり、映画の鑑賞後には「シネコンをつくろうと割り切ってよかった。青春をぶつけてくれてありがとう」と最大級の賛辞を学生たちに送りました。
展覧会鑑賞後は、学生たちと車座になって座談会をおこない、さらに会場を511教室に移して中山氏による講演会が開催されました。講演会の導入では、興奮冷めやらぬ様子で学生たちの展覧会の素晴らしさを述べた後、中山氏は学生時代に美術大学の他学部の学生から「建築は実体がない」と言われたことをくやしく思い、それからというもの「建築ならではのアプローチ」について考え続け、自分なりの答えを探り続けたこれまでについて、語られました。
最初のキーワードは、「スケール」。建築は、縮尺という道具を用いることで、地球と月と太陽の関係など、別のところにある概念を、再生させることができると説明し、縮尺を使いこなせる建築家は、地球と月と太陽の動きさえもリアルに感じることができ、それは自分たちにしかできないアプローチだと語りました。さらに、サイズは「絶対的なサイズ」と「相対的なサイズ」があり、建造物を含めた人工物は、他の人工物と比べることで、「大きさ」という概念を持つようになると紹介し、そのため建築家は空間の物差しをわざとゆがめたり、別の意味合いを持たせることで、サイズを自由自在にコントロールできるとも伝えました。
二つ目のキーワードは、「領域」。私たち人間は、自分たちがつくったしつらえによって、世界の輪郭を伸び縮みさせており、空間の大きさ=世界の輪郭を自在に変化させた自身の建築作品を例に挙げながら、建築家は人間の認識や脳の認知を味方につけて、自分たちにしかできない表現を実現できることを伝えました。
講演会の最後には、「今、この時間は、何かを成し遂げるための“準備期間”ではありません。もうすでに、走りだしています。だからこそ、制作を通じて感じる“くやしいな”という思いや“楽しいな”という思いをずっと持ち続けていれば、必ずどこかにたどり着きます。環境が変わっても、信念を持ち続けることを変えないで、これからも頑張ってください。」と学生たちにメッセージ。建築は時代や世代を超えて、知識と経験を共有できるからこそ、共に成長していこうと学生たちの背中を押しました。
学生たちにとって今回のプロジェクトは、自身の成長につながるかけがえのない経験になったことでしょう。中山氏からもらった言葉を胸に留めながら、一人ひとりの未来に向って力強く歩いていく学生たちを、本専攻はこれからも力いっぱい応援していきます。
学生コメント
総リーダー:藪井 瑠香、設計班リーダー:三輪 ひとみ
施工班リーダー:林 幸輝、映画班リーダー:伊藤 花菜穂
グラフィック班リーダー:衛本 理玖、
技術班リーダー:石本 瑞姫、
広報班リーダー:舟橋 茉那、サイン班リーダー:勝 彩湖
オンライン会場班リーダー:南 呼晴
私たちは、このプロジェクトを通じてたくさんのことを学びましたが、その中の一つが「学び続ける姿勢」だと思います。私たちは建築を学び始めて、まだ2年程です。経験もなければ、知識もありません。そのため、「何ができて、何ができないのかもわからない状態」でした。だからこそ、「もしかして、できないかもしれないけれど、それでもやってみよう」と、とにかく手を動かしました。大人の方々やプロの方々から見たら、私たちの制作過程は無謀なことばかりで、効率も悪く、やきもきしてしまうものだったかもしれません。でも、私たちは「できるできない」の枠にとらわれず、とにかく、挑戦し続けました。展覧会の掲示物を制作したグラフィック班・宣伝を担当した広報班・会場までの経路を示す掲示をつくったサイン班・ウェブサイトをつくったオンライン会場班の4班は、今まで授業でほとんど習ったことのないデザインの知識が必要だったため、フォントの成り立ちや歴史から勉強して、4班で話し合いをしながらデザインコンセプトの方向性を検討しつつ、制作を続けました。映画班は、使い慣れない動画編集ソフトの使い方を調べながら、音楽もオリジナルで制作して、短編映画を完成させました。技術班は、照明や映画の投射を担当したのですが、研究を重ね、「映像と照明をリンクさせ、映画の上映が終わったら、自動的に照明がつく」というプログラムを可能にしました。思わずしり込みしてしまいそうな、時間も労力もかかるプロセスも、勇気をもって取り組めたのは、56人のメンバー全員が「この展覧会を、最高のものにしたい」という、たったそれだけの思いからです。情熱を傾けた分、中山さんに披露するときはとても緊張しましたが、数々のお褒めの言葉をいただいて、思わず泣けてしまうぐらい感動しました。こんなすばらしい経験と学びを与えてくださったことに感謝の気持ちを持って、これからの学生生活をより豊かなものにしていきたいと思います。