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2022年12月14日

令和4年度 第2回文学部講演会「江戸時代の桃太郎のパロディを読む」

令和4年度 第2回文学部講演会「江戸時代の桃太郎のパロディを読む」

2022年10月25日(火)長久手キャンパス7B2教室

江戸時代のパロディを読み解き、
文芸を楽しむための「知的な笑い」を学習しました。

 2022年10月25日(火)、文学部の国文学会が企画運営を務める「文学部講演会」が3年ぶりに開催されました。講師としてお招きしたのは学習院大学文学部教授の鈴木 健一先生。近世文学を専門としていますが、詩歌史や学問史など特定の時代や枠に囚われず古典文学を包括的に研究されています。今回の講演会では鈴木先生に江戸時代後期に流行した絵物語『桃太郎後日噺』について講演していただきました。本作は「黄表紙」という風刺表現が光る大人向けのジャンルで、「知的な笑い」が特徴。講演会では『桃太郎後日噺』を通して「知的な笑い」について考察していきます。

令和4年度 第2回文学部講演会「江戸時代の桃太郎のパロディを読む」

令和4年度 第2回文学部講演会「江戸時代の桃太郎のパロディを読む」

 本作は、桃太郎が鬼ヶ島から故郷に凱旋する場面から始まり、タイトル通り『桃太郎』の後日談を描いた物語です。鬼ヶ島で宝物を入手した桃太郎はイヌ、サル、キジのほかに、敵の大将であった赤鬼の息子「白鬼」を故郷へ連れ帰ります。その白鬼が人間のフリをして生活する中で、その端麗な容姿から“モテる”ことで笑いが展開されていきます。鈴木先生は絵の豆知識や作品の伏線、当時の時代背景などについて解説しながら、物語を読み進めていきました。

 作品には元の『桃太郎』のパロディや言葉遊びが豊富に詰め込まれており、例えば桃太郎の両親の名前は「山右衛門」「お川」ですが、これは原作冒頭の「おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に」を由来としています。また「猿の人真似」や「鬼に金棒」「犬猿の仲」などの登場人物にまつわることわざや『桃太郎』以外の有名な物語をモチーフとした表現も多く使われており、これらの要素が江戸時代のエンターテインメントとして大衆の心を掴んでいたようです。

令和4年度 第2回文学部講演会「江戸時代の桃太郎のパロディを読む」

令和4年度 第2回文学部講演会「江戸時代の桃太郎のパロディを読む」

 前半では『桃太郎』のパロディ要素が多かったですが、後半からは思い人への復讐が描かれた『安珍・清姫伝説』のパロディが多く見られるように。江戸時代後期では『桃太郎』も『安珍・清姫伝説』も一般的に認知されており、鈴木先生は「現代人が流行りの歌や芸人のネタを覚えているように、当時の人々にとっては歌舞伎の演目は誰も知っていることでした。それらをもとに物語をつくることで、読者と作者がコミュニケーションを取っていました」と当時の作品について語りました。いくつもの知識や通念を前提とした風刺やパロディ、言葉遊びの応酬こそが、当時の大人の心に刺さる「知的な笑い」の正体だったようです。

令和4年度 第2回文学部講演会「江戸時代の桃太郎のパロディを読む」

令和4年度 第2回文学部講演会「江戸時代の桃太郎のパロディを読む」

 鈴木先生の語る「知的な笑い」は現代人にも通じるものがあるようで、学生は風刺やパロディで人気を博している漫画を例に「パロディを楽しむ感性が江戸時代にも現代にもある」ことに感心した様子を見せました。
 今回の講演会で学生たちは江戸時代における娯楽文化の一端に触れ、知識や教養があることで作品の面白さがより深まることを実感しました。学生たちは今後も学習と研鑽を重ねることで、現代の社会や文化にも随所に散りばめられた「知的な笑い」を楽しめる人生を歩むことでしょう。