追究

2023年01月27日

心理学会講演会「臨床心理学における法則定立と個性記述-創造性研究を通して-」

心理学会講演会「臨床心理学における法則定立と個性記述-創造性研究を通して-」

2022年11月25日(金)長久手キャンパス741教室

創造性を研究する臨床⼼理⼠による講演会を開催。
エビデンスに基づいた分析だけでなく、直感的な感性を大切にした
⼼理分析の重要性を伝えました。

 本学の心理学会は年に一度、学外の講師をお呼びして講演会を開催しています。2022年11月25日(金)の講演会では、名古屋大学名誉教授の松本真理子先生を講師としてお招きし、松本先生の研究を通じて、臨床心理学における法則定立(データなどを用いた客観的な考察)と個性記述(個別性や現象を重視する考察)についての理解を促しました。

心理学会講演会「臨床心理学における法則定立と個性記述-創造性研究を通して-」

心理学会講演会「臨床心理学における法則定立と個性記述-創造性研究を通して-」

 まず⼼理検査の⼿段の⼀つである「投影法」について解説。投影法とは曖昧な刺激を与え、それ に対する連想や反応から査定を⾏う検査法で、今回は代表的な投影法の⼀つ「ロールシャッハ法」 を取り上げました。ロールシャッハ法は曖昧な左右対称の図版を⾒せ、その反応から⼼理状態を分析する⽅法です。ロールシャッハ法では無意識のレベルまで検査することが可能ですが、検査に時間がかかることと、⾃由な反応の解釈が主観的になりやすいことが問題だとされています。エビデンスがないとの批判が多い投影法ですが近年では「エビデンスに基づくロールシャッハ法」として「包括システム」という分析方法が開発されました。現在ではアメリカを中⼼に、包括システムによる分析方法が広がっているそうです。

心理学会講演会「臨床心理学における法則定立と個性記述-創造性研究を通して-」

心理学会講演会「臨床心理学における法則定立と個性記述-創造性研究を通して-」

 そして投影法、知能検査およびインタビューという臨床心理学的手法を⽤いて松本先⽣が取り組んでいるのが「創造性に関する研究」です。現在では「価値の創造」や「イノベーション」など、社会でも創造性という概念が重要視され、⾝体的・精神的・社会的に満たされた状態を表す「ウェルビーイング」にも繋がっているといいます。そのような創造性を研究することで、能⼒のある若者の創造性を発揮させ、彼らの幸福感を育むことができると考え、研究が始まりました。

 研究では知能検査や投影法など実際の臨床現場でも⽤いる検査法を活⽤して、理系の院⽣10⼈と、豊富な実績をもつ研究者10⼈を⽐較しました。最初に⼤きな集団の中から似たものを集めてグループに分ける「クラスター分析」を⽤い、20⼈を複数のクラスターに分類しました。そしてそれぞれのクラスターの特徴を抽出しました。

心理学会講演会「臨床心理学における法則定立と個性記述-創造性研究を通して-」

心理学会講演会「臨床心理学における法則定立と個性記述-創造性研究を通して-」

心理学会講演会「臨床心理学における法則定立と個性記述-創造性研究を通して-」

心理学会講演会「臨床心理学における法則定立と個性記述-創造性研究を通して-」

 研究者の⽅はいずれも個性的とのことですが、そのなかでも突き抜けて強烈な個性を持つ⽅がいらっしゃったようです。その⽅のロールシャッハ法の反応内容は松本先⽣ですら想定していないような個性的な結果が出たそうです。一部の反応内容を学生に紹介したところ、学⽣たちはさまざまな感想や考察を述べ、⼀⼈の学⽣は「⾃分にない視点を持っているので会ってみたい」と前向きなコメント。これらの感想に対し、松本先⽣は「さまざまな感想があると思いますが、皆さんの率直な感性が⼼理学では重要になると思います。今後、データに基づいた⼼理検査も学ぶと思いますが、エビデンスに基づいた結果と個性記述的にその⼈を⾒た結果のどちらも同じ⼀⼈を表しています。そのためデータだけでなく、ご自分が持つ直感的な感性も⼤切にしてほしいです」と学⽣の感性を尊重しました。

 ⼼理学では膨⼤な情報を取り扱い、統計学や理系的な側⾯が⼤きいですが、松本先⽣は直感に従った主観的な感性も重要だと語りました。学⽣たちは今回の講演をきっかけに、主観性と客観性の双⽅を育みながら、⼈の⼼への寄り添い⽅を学んでいくことでしょう。本学ではこれからも多様な考え⽅を学べる講演会を実施し、学⽣たちの視野を広げる機会を提供していきます。