追究

2023年10月19日

建築・インテリアデザイン専攻 畝森泰行展「ゆっくり庭をつくるように」講演会

2023年9月2日(土)~17日(日)長久手キャンパス 8号棟5階

建築家の展覧会を学生が会場の設計から施工まで全てを担当し、
アイデアが光る独創的な会場が完成しました。

 創造表現学部 建築・インテリアデザイン専攻の3年生が著名な建築家とコラボレーションし、展覧会場の設計や施工をおこなう授業「デザインワークショップ」では、学生が実際の展示会場のデザインや設営に挑戦し、実践経験を積むことで大きな成長につなげています。今年は建築家の畝森泰行さんと連携し、畝森さんがこれまでに手がけられた建築展覧会「ゆっくり庭をつくるように」を開催しました。展覧会は2023年9月2日(土)~17日(日)まで開催され、初日には畝森さんによる講演会も実施されました。

 「デザインワークショップ」の授業では、4月に作家研究を始め作品の意図や思想を読み解き、5月からはグループに分かれて設計案を検討します。6月に畝森さんへアイデアをプレゼンテーションし、続く7月に畝森さんからのフィードバックを受け、各グループの提案を統合・ブラッシュアップさせて最終プランを決定しました。その後、設計班・グラフィック班・広報班などに分かれて設営を始め、畝森さんにアドバイスをいただきながらデザインや配置について調整を繰り返しました。施工中、学生たちは「本当に展覧会の開始期日までに設営が終わるのだろうか」と不安を覚えていましたが、無事に施工を完了させることができました。

 今回の展覧会タイトル「ゆっくり庭をつくるように」は、畝森さんが考案されたテーマで、庭を「変化するもの」「完成しないもの」「人間と自然の間にあるもの」として捉え、建築の“不確かさ”を表現したいと考えたといいます。また、学生たちの「多様なアイデアが続々と生まれ、変化し続ける設計プロセス」もコンセプトに当てはまると語られました。
 このテーマを受けて学生たちは、あえて展示のフレームがはみ出しているような設計にし、各展示の境界線を曖昧にすることで内外が溶け合うような空間を演出しました。そのほか照明の当たり方や模型の組立、休憩用のベンチの配置など細かな部分にも意識を向けて、より良い会場になるように試行錯誤しました。
 そういった努力の甲斐もあり、展覧会初日から他大学の学生や建築家の方を含め多くの方が来場し、学生たちが設計した展示を興味深そうに観賞している様子がうかがえました。さらに畝森さんが会場を見て回られた際には、「工夫されていて面白いね」「すごいものができあがった」など、学生のアイデアを絶賛していただきました。高評価をいただけたことで、当初は緊張していた学生たちも安堵と喜びの表情を浮かべました。

 畝森さんに会場を見学していただいた後は、明るい雰囲気の中で、畝森さんと学生たちの座談会を実施し交流を深めました。今回の設営で大変だったことや、工夫したポイントなどを語り合い、畝森さんから率直な感想を聞かれた学生は「完成してほっとしました」と、思わず本音がこぼれました。その言葉を聞いた畝森さんは「大変だったとは思いますが、そのおかげですばらしい展覧会になりました」と、笑顔で学生たちに労いのお言葉を送られました。

 9月2日(土)の午後からは、今回の展示会やこれまでに携わってきた建築物について、畝森さんに紹介していただく講演会が開催されました。展示会のテーマやコンセプトについて改めて解説していただき、学生が施工した展示会場については「想像を超えていたので驚きました」と、クオリティの高さを称賛されました。まだ展覧会を見ていない人に対しては「模型や展示物だけでなく、空間を体験してほしいです」と、学生が設計した会場を含めて楽しんでほしいという思いを伝えられました。

 講演会の後半では、独立した畝森さんが初めて手がけられた4階建て住宅「small house」や、市民交流や子育て支援などが可能な岩手県の複合公共施設、ご自身が実際にご家族と生活されている自宅など、計11の建築を説明。今回ご紹介いただいた建築で重視された「他者を認められる」「変化がある」「シンプルである」といった3つの軸をはじめ、建築ごとの考え方や設計意図、こだわり、工夫などを細かく語っていただきました。学生たちはここでしか聞けないような貴重なお話に真剣な様子で耳を傾け、熱心にメモを取っていました。

 質疑応答の時間では、「建築は今後どのようになっていくと思いますか」「構造はどのタイミングで考えますか」など、建築に関する多くの質問が寄せられました。今回の展示会に関しては、「タイトルの“ゆっくり”にはどのような意味が込められていますか」という質問がありました。畝森さんは「建築において時間をかけることに可能性を感じています。時には早急な決断を迫られることもありますが、時間をかけなければより良い判断はできません。時間をかけて良いことも悪いことも許容できる余裕を持つことが大切だと思い、“ゆっくり”をタイトルにつけました」と、テーマ設定に込めた思いを答えていただきました。
 「デザインワークショップ」を通して、建築家の視点や考え方を学び、魅力的な展覧会を仕上げることに成功した学生たち。畝森さんの意図を汲みながらも、自分たちの独創性して会場を手がけた経験は、卒業後も大きな財産となるでしょう。

参加学生インタビュー

 私たちは各グループのリーダーとして会場のデザインや施工に携わる中で、コミュニケーションの重要性を再認識できました。企画や施工のスケジュールに余裕があるわけではなかったので、スピーディーな行動が求められました。しかし、情報が行き届いていなかったり、うまく仕事を割り振れていなかったりして、当初は効率的な作業ができずにいました。
 そこで、情報共有や役割分担を徹底してできるだけ手の空いている人を作らないようにし、全員が一丸となって製作を進めるようにしたことで、なんとか当日までに完成させることができました。大変な事も多かったですが、今では「皆でここまで頑張ってきて良かった」と思っています。社会に出た後も今回得た知見や経験を活かしていきたいです。