追究
2025年01月24日
2024年度創造表現学会主催講演会 「ちょっと{みらい}考えてみた。 アート、表現、AIと人間が共存する世界」

2024年11月30日(土)長久手キャンパス 5号棟512教室
生成AIでどのような表現ができるのか
多様な事例を通して視野をアップデートし、
議論を深める機会になりました。
創造表現学部の科目「現代デザイン論」の授業も兼ねた講演会「ちょっと{みらい}考えてみた。 アート、表現、AIと人間が共存する世界」が2024年11月30日(土)に開催されました。
ゲスト講師は、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻修了し、現在は札幌大谷大学芸術学部美術学科で教授を務める島名毅様。生成AIを活用した制作を自ら実践することにより、世の中のデザインやアートがこれからどのように変化していくのかを研究しています。
冒頭では、言葉から画像を生成するDALL・E2、含めたくない要素を指定するネガティブプロンプト、ディフュージョンモデルなどの仕組みを解説。生成AIの年代別利用率やクリエイターの生成AI利用実態調査にも触れ、職種や世代によって利用傾向が異なるものの、著作権や無断使用に対する不安が共通してあること、職種や世代に応じたガイドラインの整備が急務だと伝えました。
AIクリエイティブの実例として、画像生成AIモデルの起用で反響を集めた「オタ恋WEB広告」、言葉で画像をつくるプロンプトを活用した「東急URBAN HACKSエンジニア・デザイナー募集広告」、バーチャルインフルエンサーが登場する「野村HDの新NISA広告」などを紹介。インパクトが重視されるなか、架空の人物を使うことで誰も傷つけず、宣伝できるのが画像生成AIの利点です。
続けて、さまざまな企業のCM映像を流し、画像生成AIがどのように活用されているかを解説。バーチャル女優を起用したCMで話題を集めたものと、大炎上したものも取り上げ、「明確な理由はまったくわかりません。不気味の谷を越えたかどうかの違いだと推測されています」と説明。「不気味の谷」とは、人間のような性質を持ったロボットやCG映像などに対して、違和感や嫌悪感を抱く現象のことを指します。
島名様は、「AIを使うかどうか、賛成、反対、どちらでもいいと思います。まずはぜんぶ試してみて、そのうえで自分の作品にどのような影響があるのか知ることが大切です。プラスに働きそうならどう使うべきなのか、マイナスならどうやって立ち向かっていくかを考えていかなければなりません。」と伝え、2022年から現在まで、画像生成AIを触って試し続けてきた体験談もお話されました。
これから意識していくことは「AIを道具として活用すること。生成AIで作ったものをどう使っていくか、新しい創造性の定義をみんなで考えることも重要です。シンプルに考えると、楽しいことは人間がやり、苦手なことはAIに任せればいい。人間がつくる意味の結論はまだ出ていないので、考えていくしかないです」と述べられました。
壁に粘着テープでバナナを貼り付けた芸術作品「コメディアン」などを例にアートの定義にも触れ、「考え方をビジュアル化して伝えたコンセプトがアートだから、コンセプトアートと呼ばれています。美しいもの、手で創作したものだけがアートではないのです」と話されます。
それを踏まえたうえで、AIを道具として使う際に欠かせないこととして、「AIに依頼して物をつくっていると考えること」、「アウトプットするものは自分が責任を持つこと、結局は人です」など、倫理と著作権についても伝え、講演会を締めくくりました。
学習したデータをもとに文章や画像、動画などのコンテンツを生成する人工知能として、「生成AI」というキーワードが話題にのぼるようになってから、数年が過ぎました。世間では、「AIが日常化すると人間の存在意義が揺らぐのでは」という悲観論の一方で、「人間の能力を拡張するツールとしてAIを活用すれば幸せになる」という楽観論もあります。アートや表現の分野では、どのように活用していけば良いのかを改めて考え、視野を広げる機会になりました。
注1)画像内引用:デジハリ・オンラインスクールによる「クリエイターと生成AIに関する意識調査」
https://www.dhw.co.jp/press-release/20241004_ai58/