追究

2026年03月02日

創造表現学部 創作表現専攻 講演会「実践!小説創作の作法」

2026年1月26日(月) 長久手キャンパス233教室

新潮社元編集長・上田恭弘氏に学ぶ
「書くこと」の覚悟と醍醐味

 「小説家になりたい」「物語を書きたい」――そんな熱い志を持つ学生たちに向けて、2026年1月26日(月)に創造表現学部が主催する特別講演会「実践!小説創作の作法」が開催されました。
 講師には新潮社で編集者として長年にわたり文芸編集に携わってきた上田恭弘氏をお招きしました。企画をコーディネートしたのは、創作表現専攻で小説創作を指導する松田樹先生です。上田氏は、1960年生まれで京都大学を卒業後、1985年に新潮社に入社。文庫編集部、出版部、『小説新潮』編集長、電子書籍事業部室長などを歴任し、多くの作家と接してきたプロフェッショナルです。

 講演で上田氏はまず小説の本質について語られました。「小説とは人間の真実を追求するもの」という定義に対し、上田氏はエンターテイメントの業界で長年編集をしてきた独自の視点を加えて、「大切なのは、人間の真実を『面白い物語』に載せて届けること。どうすれば読み手を惹きつけられるのか、その仕掛けを考えることこそが小説の醍醐味です」と話しました。
 また、芥川賞と直木賞の違いについて、芥川賞は純文学であり、直木賞はエンターテインメント要素が持ち込まれた作品であると両者の違いを説明し、その両ジャンルのポイントを解説するなど、業界の第一線にいたからこそ語れる解説に、学生たちは熱心にメモを取っていました。

 次のテーマは学生からの関心が特に高い「上達の秘訣」について。上田氏は冒頭に「このテーマに期待している学生さんも多いと思いますが、すぐに上達するような〝魔法〟はありません」と前置きしたうえで、極めてシンプルでありながら創作に向き合ううえで本質的な4つのポイントを紹介してくださいました。

『たくさん読み、たくさん書く』
 まず上田氏は、学生に向けて「寝る前の時間を何に使っていますか。」と問いかけました。現代では、小説の競合相手は他の作家ではなく、SNSや動画、ゲームなどあらゆる娯楽です。その中で読者に時間とお金を使ってもらうためには、冒頭のつかみ、読みやすさ、魅力的なキャラクターといった「工夫」が欠かせません。そのためにも、多くを読み、多くを書き、自分なりの表現を磨くことが重要だと強調されました。

『書くことの優先順位を上げる』
 次に上田氏は、出版に携わった作家の例として、上場企業で重責を担いつつ、毎朝早起きして執筆を続けデビューした方のエピソードを紹介しました。「忙しい」を理由にせず、生活の中で書くことの優先度をどれだけ高められるかが、プロへの分かれ道となると語られました。

『自分にとって「切実なこと」を書く』
 自分自身が心から訴えたいメッセージ、切実な想いを込めることで、作品に強い信憑性とエネルギーが宿ります。そうしたメッセージ性の高い作品を生み出すためにも、日頃から日常の出来事や世間の動向など自分の身の回りに対する関心を高めておくことが大切だと上田氏は語りました。

『自分の作品に自信を持つ』
 最後に上⽥⽒は、作家の仕事とは「世の中になかった価値を⽣み出すこと」だと強調しました。作家の数、編集者の数だけ作品があります。その中で⾃分の感性を信じ、作品に⾃信を持つことの重要性を説かれました。

 講演後は、学生が執筆した課題作品の公開講評が行われ、3名の作品について、上田氏が丁寧かつ詳細な指導をしてくださいました。時代設定との整合性、描写の裏付けとなる事実確認、そして語彙選択がその時代にふさわしいかといった、プロならではの視点の指摘が次々と示されました。一語一句を見逃さないその姿勢からは、編集者が原稿のどこに着目し、どのように作品を磨き上げていくのかが鮮やかに伝わってきました。上田氏の指摘は鋭いものの、作品をより良くしたいという温かな意図が随所に感じられ、講評を受けた学生だけでなく、会場にいたすべての学生にとって、大きな刺激となりました。

 さらに、魅力的なキャラクターの構築方法やストーリーの組み立て方、新人賞を目指す際の具体的な戦略など、多岐にわたる実践的なアドバイスが披露されました。
 講演を終えた学生たちの表情には、プロの基準の高さに圧倒されつつも、制作への決意と高い意欲が感じられました。

 「読者の娯楽」という大きな競争相手に立ち向かい、自分にしか書けない「真実」を紡ぎ出す。そのための「作法」を学んだ今回の講演会は、参加した学生たちにとって、今後の創作活動を力強く後押しする貴重な時間となりました。