追究

2025年01月24日

創造表現学会主催講演会 知求儀 「ミュージアム体験の長期記憶を探る」

2024年12月7日(木)長久手キャンパス825教室

あなたの記憶に残っているミュージアム体験は?
体験エピソードを分析し、ミュージアムの評価基準について探求しました。

 専門分野の第一線で活躍する研究者をお招きして開催している創造表現学部の講演会「知求儀」。オリジナリティあふれる研究にはどのような気づきや発見があったのかを考え、これからの時代を生きるヒントを見つける機会としています。
 2024年12月7日(木)の講演会では、北海道大学総合博物館の湯浅万紀子教授が登壇しました。湯浅教授の専門は博物館教育学です。来館者をはじめミュージアム活動に関与するさまざまな人の体験の長期記憶に注目し、その語りを分析して体系的な調査研究をする日本で初めてのユニークな試みをされています。

 講演会の前には、「幼い頃から行ったことがあるミュージアムのなかで、今思い浮かぶ、最も印象に残っているミュージアムでの体験について綴ってください」という投げかけがあり、学生たちはシートに記入しました。そして講演会の冒頭では、湯浅教授からミュージアムには資料を収集・保存して調査研究し、その研究成果を伝えるという基本機能があることなどの説明がありました。さらに北海道大学総合博物館は、社会に開かれた大学の窓口としても機能しており、学生たちがミュージアムを紹介する映像を制作したり、グッズを企画したりと、積極的に関与している事例を紹介していただきました。

 今回の講演会の本題は、2021年に本学学生119名に調査したミュージアム体験のレポート分析です。学生たちのミュージアム体験の記憶を、「ミュージアムのジャンル別」、「同伴者や学芸員、他の来館者とのエピソード」、「来館前の準備や道のり、期待感」、「展示空間や建物、環境」、「グッズや食事」、「来館後の体験」、「時を経て、『今』のエピソード」など、さまざまな角度や時間軸で紹介していきます。そこから見えてきたのは、ミュージアム体験の幅広さです。「博物館教育」「自発的学習」といった一般的なイメージ以上に、多様かつ極めて個人的なミュージアム体験が語られています。そして過去の体験は、時を経て変化したり強化されたりすることも見えてきました。

 湯浅教授は、「博物館評価の指標には、来館者数や入館料収入、コレクション数、研究費の獲得数といった分かりやすい数字があります。これらは確かに重要な指標ですが、それだけで博物館を正しく評価できるでしょうか。多様なミュージアム体験をもつ人々がいて、その一つひとつがパーソナルな意味をもち、ミュージアムを訪れる前から訪れた後、そして今、そして未来に体験を思い出す時までのトータルな体験であることを理解した上で博物館評価を考える必要があります」と、研究の意義についてお話しされました。

 湯浅教授と共同研究を進めている創造表現学部メディアプロデュース専攻の藤田良治先生からも、「評価を気にする学生は多いですが、例えばテストの点数や偏差値といった縦軸だけでなく、もっといろいろな軸で評価がなされなければいけない。わたしたちの研究はそういった評価軸に一石を投じるものであり、学生のみなさんにも考えてほしいです」と締めくくられました。今回の講演会で、ユニークな研究テーマに触れた学生たち。博物館体験を体系的に研究する意義を知り、物事の評価軸について思考を深める時間となりました。