追究
2025年01月31日
創造表現学会企画「韓国と日本の翻訳家きむふな氏トークイベント」

2024年12月19日(木)長久手キャンパス ミニシアター
アジア人女性初のノーベル文学賞が誕生!
その翻訳を手がけたきむふな氏が語る韓国文学と背景について
創造表現学部の全学生が学会員となり講演会や展覧会などの企画運営をおこなう創造表現学会。12月19日(木)には、韓国と日本の翻訳家であるきむふな氏をゲストスピーカーとしてお招きしたトークイベントが開催されました。
きむふな氏は、2024年、アジア人女性として初めてノーベル文学賞を受賞した韓国の作家ハン・ガン氏の作品を数々翻訳しており、日本にも多くのファンがいます。トークイベントでは、ハン・ガン氏のノーベル賞受賞にも話題が及びました。
映画化されたハン・ガン氏の代表作「菜食主義者」の翻訳も手がけたきむふな氏。ハン・ガン氏の作品は日本では8作品が翻訳されているため、受賞が発表されると、韓国だけでなく、日本の読者も「まるで自国の作家が受賞したかのように喜んでくれた」と嬉しそうに話してくださいました。
一方、ハン・ガン氏の快挙に沸く韓国文学界に衝撃的なニュースもありました。12月3日、尹錫悦大統領による「非常戒厳」の発表は、表現の自由を重んじる文学界に大きな衝撃を与えたのです。これによって言論や表現の自由が侵害されることが杞憂され、創造表現学部の学生たちからも心配の声が上がっていました。きむ氏はこれを受けて「韓国の文学には韓国の政治的背景を背負った作品が多く、韓国の若い人たちは文学を通じて歴史を知ることも多いと思います。ハン・ガン氏の作品が高く評価されているのは、こうした朝鮮半島に色濃く残る特殊的な独裁政権や戦争、分断など、歴史上のトラウマを背景にしながらも、それらをより普遍的な人類の物語として描いているからなのではないでしょうか。彼女は〝世界はどうしてこんなに暴力的で苦しいんだろう〟と語りながら、一方で〝世界はどうしてこんなに美しいんだろう〟と描いている」と話され、日本とは異なる歴史や文化の中で、文学作品をはじめとするエンターテイメントが担う役割の重要性も伝えてくださいました。
また近年、韓国では女性作家の活躍が目覚ましいことにも触れ、韓国では女性で政治に関心を持ち、自分の意見を主張する傾向が日本よりも高いと説明。韓国では、日本以上に出生率の低下が深刻化していますが、その理由の1つとして、韓国の女性が政治的思想が異なる相手とは結婚できないと答える人が多いという調査結果も報告しながら、韓国での男女の価値観にも差が生まれていることにも話が及びました。
トークイベント後の質疑応答では、学生から「韓国語から日本語に翻訳する際に心掛けていることを教えてください」と質問がありました。するときむ氏は、「翻訳された作品の中には、これは誰々の翻訳だなと翻訳家の特徴が表れている作品もいくつかあり、この人が翻訳した作品だから読みたいという人もいるでしょう。しかし、私はできるだけ自分の色をつけたくないと思っています。ハン・ガンさんの作品は難しい言葉が少なく、日常的な平凡な言葉遣いが多く、その分、イメージを広げるような言葉の変換力が高い作家さんです。『菜食主義者』の場合、主人公が肉食を拒んで段々と破壊していく様を、読む人が自分の体が痛くなるような生々しさを表現したいと工夫しました」と翻訳家としての自分のあり方を話してくださいました。
そして、最後に、海外作品には、世界が何を求めているのかといった世界情勢につながる側面もあるという視点も持ちながらあらゆる作品にふれてほしいとメッセージしました。