追究

2025年09月09日

愛知淑徳大学 開学50周年記念講演会 食健康科学部 「食と健康の過去・現在・未来」

2025年6月28日 (土)長久手キャンパス741教室

食と健康をテーマにした研究者の講演会を開催。
過去から未来へとつながる視点で、多くの学びがありました。

 2025年6月28日(土)、本学の開学50周年を記念して食健康科学部主催「食と健康の過去・現在・未来」をテーマとした講演会が開催されました。
 一般の方にも公開された今回の講演会は、学生をはじめ地域の方も多く参加され、法政大学人間環境学部 湯澤規子先生と宮城大学食産業学群 石川伸一先生をゲストしてお迎えし、講演後には質疑応答の時間も設けられ、食と健康についてより深く知ることが出来る機会となりました。

 前半は、法政大学人間環境学部 湯澤規子先生に「胃袋から考える食と健康の近現代史」をテーマにご講演いただきました。歴史地理学を専門とする湯澤先生は、世界各国でフィールドワークをおこない、現地の人との交流を通じて人間の営みについて研究しておられます。はじめに「胃袋を単なる消化器として捉えるのではなく、“食べる”という行為そのものについて考えてほしい」と参加者に呼びかけました。食べるという行為は、社会的・文化的・生理的に多義的な意味を持つにも関わらず、現代ではその意味が単純化しつつあると説明されました。
 続いて、愛知県尾西市の織物業地域でのフィールドワークについて紹介。工場経営資料として残されていた約100年前の献立表を取り上げ、「食べること、給食を提供することは、その地域の産業そのものを支え、重要な責務を担っていた」と語られました。また、時代の変化とともに公共的な食事が増え、栄養への関心が高まってきた経緯についても触れられました。

 さらに時代の変化に伴い、食の欠乏調査から肥満調査へと変化していることや、食の個別化についても言及。かつては” 胃袋で味わっていた食“から、舌、見た目、頭(栄養学的思考)で食べるようになったと語られました。最後に“健やか”という言葉を取り上げ、「現代では食が個人のものになりつつあり、個人の“健やかさ”が目標とされがちですが、実際には食は社会や環境とも深く結びついています。“健やか”という概念をより広い視点で捉え、皆さんと共に考えていきたい」とまとめられました。

 後半は、宮城大学食産業学群 石川伸一先生が「『食の未来』を夢想する~フードテック、おいしさ、分子調理の3つの視点から~」をテーマに講演されました。はじめにおいしさを理解するための4つの視点として、サイエンス、アート、デザイン、エンジニアリングを挙げ、それぞれが相互に関わり合うことの重要性をお話しされました。植物性代替肉や3Dフードプリンター、機械で料理を作るロボティクスなどを例に「これらは新しいものではなく、もともと他分野に存在していた技術を食分野に応用した」と説明し、フードテックへの期待が高まっていると話されます。一方で「フードテックの進展は、農畜産や水産業、調理における職人技の衰退や喪失を引き起こす可能性もある」と述べ、技術導入のバランスを考える重要性を強調されました。

 石川先生はおいしさの科学についても言及し、おいしさは数値で測れるものではなく、食品そのもの、食べる人の生理的・心理的要因、さらに自然や社会といった食環境の影響を受けて決まると説明されました。「食に関する学問は、調理学や生理学、民俗学、経済学と多様な分野にまたがっているので、ぜひ視野を広げて、関心の対象を広く持ってほしい」と参加者に呼びかけられました。
 その後、「料理と科学の関係」について、料理の世界に科学的視点を取り入れて研究を進めた2人の科学者の事例を紹介。「ものづくりにおいては、テクノロジーが技術に先行するが、料理においては技術が先。技術を持つ料理人がテクノロジーの知識を取り入れることで、新たな料理の創造につながる」と語られました。イギリスの科学者J・D・バナールの著書『宇宙・肉体・悪魔』から「宿命の未来」「願望の未来」という言葉を引用し、「未来をどう生きるかは、自分が何をやりたいのかにかかっています」と食や健康について学ぶ学生たちに熱いエールを送りました。

 最後に質疑応答の時間が設けられ、お2人の先生に親身にご回答いただきました。講演の締めくくりには、湯澤先生から「皆さんと一緒に食の未来について考えていきたい」、石川先生からは「食に関わる同志として、共に頑張っていきましょう」という言葉が送られました。

 開学50周年を記念して行われた講演会は、食と健康の分野の第一線で活躍する先生方から直接お話をうかがうことができ、学生も参加された一般の方にも、大変貴重な機会となりました。本学では、今後もこのような学びの機会を提供し、学生たちの成長を支援していきます。