追究
2013年08月11日
山下保博 × アトリエ・天工人 Tomorrow ―建築の冒険― 愛知巡回展

建築の可能性に挑み続ける山下氏のオリジナル建築展を、34人の学生がつくり上げました。
都市環境デザインコースでは、毎年、学生が主体となって展覧会の企画・会場づくりに取り組んでいます。14回目となる今年は、建築とインテリアデザインの専門ギャラリー「TOTOギャラリー・間」(東京・乃木坂)で開催された山下保博氏の展覧会を「愛知巡回展」として再構成。さらに、珪砂や粘土を精製するときに生じる産業副産物・キラの新たな使用法を提案する、オリジナルの企画も盛り込みました。
7月27日(土)~8月11日(日)までの16日間、学内で開催された「山下保博×アトリエ・天工人 Tomorrow―建築の冒険― 愛知巡回展」。常識にとらわれない挑戦的な建築をつくり続けている山下氏のご協力のもと、会場プランの考案、施工、宣伝活動、展覧会の運営などに3年生34人が力を注ぎました。 会期中は、建築業界の方や建築を学ぶ学生、会場設営の際にご協力いただいた瀬戸の窯業に関わる方、オープンキャンパスに来た高校生が来場。さらに、山下氏も訪れ、学生たちの頑張りにあたたかな称賛を送っていました。 ここでは、その建築展がどのようにつくり上げられたのか、ダイジェストで紹介します。
1st Stage 事前研修
建築展をはじめるにあたり、学生たちは山下氏のように新たな資材を研究しようと、珪砂や粘土を精製するときに排出される産業副産物・キラに着目。愛知県瀬戸市や常滑市の鉱山や工場を見学し、窯業に関わる人々からキラについて話を伺い、理解を深めました。
2nd Stage 研究パネル発表
山下氏が「冒険」と呼んでいる、建築に対する「構造」「環境」「五感」などの視点や取り組みを、チームに分かれて研究。その内容や考察をメンバー全員で共有するために、プレゼンテーションもおこなわれ、学生たちは山下氏の過去の作品を分析し、活動や建築に関する考え方を学びました。
3rd Stage 会場プラン考案
研究パネルの内容をもとにチームごとに会場プランの考案、模型制作をおこない、山下氏を招いてプレゼンテーションを実施しました。学生たちは山下氏や先生方の厳しい指導やアドバイスをしっかり受け止め、プランを改善していきました。
4th Stage 全体像の決定
山下氏は、各チームの案を融合させた新たな会場プランづくりを提案。山下氏の世界観を魅力的に伝える展示方法、キラの新たな可能性を体感できる空間づくりなどについて何度も話し合いを重ね、6月末に会場プランの全体像を決定しました。
5th Stage 設営準備
キラをタイルやブロックとして再利用する方法を研究するリサーチ班、会場への誘導や宣伝をおこなうアプローチ班、展示で使用するタイルをつくる型枠班、会場プランの模型や設計図などをつくり込む会場設営班にわかれ、それぞれが準備に力を注ぎました。
6th Stage 宣伝活動
長久手キャンパス内で大型看板の取り付けやチラシの配布をおこない、展覧会の開催をPR。また、展覧会と同時に、キラを使ったタイルづくりのワークショップを実施する計画も進め、地域の幼稚園・保育園などに宣伝をおこないました。
7th Stage 構内アプローチ
キラでつくったブロックの強度を知ってもらいたい。その思いからキラ・ブロックのオブジェを構内に設置しました。山下氏の「多くの人を巻き込んで楽しいことをやろう!」という考えを受け継ぎ、体感型のアプローチが完成しました。
8th Stage 会場設営
開催日の1週間前、会場設営が本格的にスタート。山下氏の作品をモチーフに考案した「キラの礼拝堂」に使ったキラ・タイル(一部キラ・ペンキ仕上げ)はおよそ3000枚。繊細な作業にも学生全員で協力して取り組み、納得できるまで根気よく仕上げていきました。
9th Stage 開催日
ついに展覧会の開催を迎えた7月27日(土)。学生たちは達成感に満ちあふれた笑顔を浮かべ、約4カ月間の努力を互いに称え合いました。この日は、オープンキャンパスも開催されており、多くの高校生や保護者の方が来場。「この展覧会、大学生がつくったの!?」と驚きの声を上げていました。さらに8月3日(土)には関連イベントとして山下氏による講演会「地域素材から街づくりへ」も開催。直前に会場を見学した山下氏は、「僕の作品や建築への思いを、学生の皆さんが大きく膨らませてくれました。自分たちのものとして誇りを持って展覧会に向き合い、形にしてくれたことに、とても感動しています」と最大級の称賛を贈りました。
Topics 山下氏の思いを形にし、建築の新たな可能性を発信する展覧会。
素材の可能性に挑戦するアルミハウス・プロジェクト、古民家再生や移築再生などに取り組む古民家プロジェクト、地域素材に着目し生活者視点に立ったまちづくり、よりよい仮設住宅を提案する災害復興プロジェクト......。山下氏は、ジャンルを超えたボーダレスな活動をおこなう建築家です。そんな山下氏が生み出す空間の魅力は、既成概念にとらわれず、建築を通して常に新しい可能性を模索しているところ。日本で初めて天日干しの土のブロックで住宅をつくったり、厳しい条件の土地に住宅を建てたり、建築の限界に挑んでいます。
今回の展覧会では、山下氏の挑戦の軌跡がテーマごとにパネルと建築模型などによって伝えられました。さらに、山下氏と学生たちの新たな挑戦のひとつである「キラ」でタイルをつくり再利用する取り組み「瀬戸の土project」の成果も展示。建築の新たな可能性に挑む山下氏と、キラの可能性を追究した学生たちの思いが見事に融合し、展覧会の副題でもある「建築の明日」を感じる展覧会となりました。
山下氏の作品を約3000枚のキラ・タイルで再現した「キラの礼拝堂」
「キラ」の資材としての可能性をひとつの形にした、学生たち渾身の作品です。四方からの光によって浮き上がる十字架の光が幻想的な雰囲気を演出。訪れた人々はその空間の美しさに「すごい!」「きれいだね」と感嘆の声を上げていました。使用したキラ・タイルは、約3000枚(一部キラ・ペンキ仕上げ)。学生たちの展覧会にかける思いも凝縮された、メイン・オブジェとなりました。
キラの可能性に触れられる「キラの現在・過去・未来」
珪砂等精製の副産物であるキラを、瀬戸の人々は高額な費用をかけて処分している。そんな現状を知った学生たちが、キラを新たな資材として使用できないかと考え、「瀬戸の土project」がスタートしました。実際にキラに触れられる「キラのカケラ」や「キラ山」、実験結果を示したパネルなどが展示され、焼かないレンガなどの技術を考案した山下氏とのコラボレーションの成果が披露されました。
Interview 多くの人の力を合わせ、展覧会を形にする。その経験は、何物にもかえがたい財産。
建築展をつくるだけではなく、新たな資材の可能性の提案にも挑む。今年度の会場づくりは、前例がない取り組みとなり、試行錯誤を繰り返す毎日でした。3000枚必要なタイルづくりも、簡単に壊れてしまったり、ヒビが入ってしまったり、苦戦しました。それでも乗り越えられたのは、メンバー一人ひとりの力がひとつになったから。全員が「自分たちが感動したキラの可能性を来場者の方々にも感じてもらいたい!」と同じ目標に向かって全力疾走したから、このイベントをつくり上げることができたのだと思います。 山下さんをはじめ、瀬戸の窯業に携わる方々、土ブロックを研究している大学教授の方など、その道のプロの方々との協働は、建築を学ぶ私たちとって向学心を刺激されるものでした。ひとつひとつの経験や実感を、これからの学修や研究、卒業後の進路実現に活かしていきます。