学生相談室長からのメッセージ

「Z世代の学生相談」

 Z世代とは、一般的に1996年から2012年に生まれたデジタルネイティブの世代を指す。この世代は、物心ついた頃からインターネットやスマートフォンが普及していて、SNSやオンラインゲームなどを日常的に利用する環境で育ってきた完全なデジタルネイティブとされている。つまり、リアルな対人関係の経験や社会的経験がベースにあって、その上にデジタル上の非対面的なコミュニケーション経験があるというのではなく、最初から非対面的なコミュニケーションが対面的なコミュニケーションと並行して経験されている世代ということである。そして昨今、このZ世代との交流について、それ以前の世代の戸惑いの声をよく聞くようになった。多くは企業の上司や学校の教員であり、部下や生徒・学生などとどのように関わったらいいかわからないという、悲痛な悩みのようである。叱責したり注意したりするとすぐパワハラ扱いされると、多少戯画的にネタにされたりもする。かといって褒めるという方法も単純にはうまくいかないらしい。現代の大学生は教員から褒められることを「圧」と感じるようで、人前で褒められると発言量が減るのだという(金間,2022)。

 その理由としては、自分に自信がないこととのギャップや、それを聞いた周囲の人のなかで自分という存在の印象が強くなることを恐れているのではないかと考えられている。さらには、自分の本音を言うことに慎重であるとも言われている。これにはSNSなどのオンライン上で、自分の投稿によって「小さな炎上」が起こることへの強い危機感があるからだという(乗添,2023)。Z世代にとっては、オンライン上の対人関係とリアルな対人関係は密接につながっているのだそうだ。たしかに、SNS上の何気ない投稿がリアルな対人トラブルにつながってしまった事例を私も知っている。だから、このようなリスクを避けるために、自分の意見を控えめにしたり、言葉を選んだりして、私などからすると過剰とも思えるほど気を遣うのだろう。それはもはや身体感覚としてほとんど自明のようになっているのではないだろうか。

 一方で、あるいはそれが故に、若い人たちは、個別の関係や少人数の親密な関係のなかで自分の考えていることや感じていることを表現したり承認されることを重要なものとみなしているようにも思われる。学生相談もそうした文脈で利用されることがあるかもしれない。できれば、学生相談のなかで安心して自己表現できるようになることが、自分のリアルな人間関係のなかでも安心して自分でいられることにつながると良いと思うのだが、カウンセラーだから安心して話せるという、ある種保険のかかった状態での自己表現は、そうでない場での自己表現を抑制することと表裏一体でもあるだろう。そのように区別できることが重要であるということもある。しかし、そうしたカウンセリングはいったいどこへ向かうことになるのだろうか。目標とか“やりたいこと”が特にないというのも現代の若者の特徴と言われたりするが、若者にとっては、関係のための関係、コミュニケーションのためのコミュニケーションという、前思春期的なチャムシップのようなものが重要なのかもしれない。コミュニケーションを通して自己に気づき、他者に気づき、過去と現在と未来という自己の変容と連続性を確認するという古典的なアイデンティティ形成の営みは、もう少し後のテーマなのかもしれない。

 Z世代より前世代の私たちは、Z世代の大学生についていろいろ考えるべきことがあるのだと思う。自分たちの経験からは予測もつかないことが、大学生のなかでは起こっているのだろう。不確実性が高く正解が見えない現代は、不安とともに生きる時代と言えるかもしれない。それは大学生自身も、学生相談に関わる私たちにとっても共通の経験かもしれない。その体感や対処法が違うということなのだろう。もしかしたら、その不安を通してお互いに理解を進めることができるかもしれない。違うことを前提にして。